ナオミと結婚して幸福の絶頂に立つ河合。
ここから河合の地獄が始まる。
ひとつめ──ナオミは河合が期待したほど賢い女ではなかった。
勉強ができなくて叱ると、すぐ拗ねる、上目使いで見る、負け惜しみを言う。
「理想の女」に育てあげるという河合の願いは見事に崩れ去ったのだ。
ふたつめ──贅沢が大好き。
以前は一枚のビフテキで満足していたのに、次第に口が奢って「あれが食べたい」「これが食べたい」と言い出す。
服への執着もすごくて、買ってあげないと拗ねるし、おかしな誘惑をしたりする。
結果、河合の貯金は尽きて、国の母親にお金の無心をすることに。
しかし、河合はこう思っている。
「私の本懐はナオミを少しでも身綺麗にさせて置くこと、不自由な思いやケチ臭いことさせないことでしたから、困る困ると愚痴りながらも彼女の贅沢を許していました」
三つ目──「お伽噺の家」の生活に満足できなくなる。
今までは河合との生活に満足していたのだが、次第に外に出たがるようになり、
「ソシアル・ダンス」を習いたいと言う。
河合はそれを許すが、そこでさまざまな男たちと出会う。
銀座のダンスホール・カフエ・エルドラドオでは、男たちに囲まれて女王様のようにふるまい、
西洋風に着飾った日本人のお嬢さんを「猿」と呼んでからかい、西洋人を前にすると卑屈になる。
こんなナオミに河合は失望する。
だが、河合は……
「私は失望しました。しかし一方で、ナオミの肉体は私を惹きつけてやみませんでした。
ナオミは頭脳の方では私の期待を裏切りながら、肉体の方ではいよいよますます理想通りに、いやそれ以上に美しさを増して行ったのです」
いやはやなんとも。
俗な言い方をすれば、
・恋の熱情
・執着の怖ろしさ
・マゾヒズムの男の心象
・女という生き物の怖ろしさ である。
奔放なナオミの行き着く先は当然浮気だ。
河合は怒り狂う。
「何だお前は! 己(おれ)に恥をかかせたな! ばいた! 淫売! じごく!」
この時の河合の心情はこうだ。
『私にとってナオミは成熟するまでに労力をかけて育てた果実と同じです。
だからそれを味わうのは栽培者たる私の当然の報酬であって、あかの他人にむしられ歯を立てられてはいけないのです』
何ともエゴイスティックな思いだが、二度と浮気をしないと誓ったのに、なおも浮気を重ねると
「出て行け! 畜生! 犬! 人非人! もう貴様には用はないんだ!」
結果、ナオミは出て行く。
河合は「清々した」といったん思うが、すぐに後悔して
「お前は馬鹿だぞ。ちっとやそっとの不都合があっても、あれだけの美は世間にありはしないぞ」と思うようになる。
ナオミは強い酒なのだ。
飲み過ぎると体に毒だと知りながら、その芳醇な香気を嗅がされ、なみなみと盛った杯を見せられると飲まずにはいられなくなる酒なのだ。
河合のナオミへの執着は、凄まじい人間の業である。
ナオミが稀代の悪女と言われるのはこのためである。
最終的にふたりがどうなるのかはネタバレになるので書かないが、
ラストはなかなか衝撃的、いや笑劇的だ!
微笑ましくて笑ってしまう。
たぶん、この結末で河合はものすごく幸せなのだと思う。
ここから河合の地獄が始まる。
ひとつめ──ナオミは河合が期待したほど賢い女ではなかった。
勉強ができなくて叱ると、すぐ拗ねる、上目使いで見る、負け惜しみを言う。
「理想の女」に育てあげるという河合の願いは見事に崩れ去ったのだ。
ふたつめ──贅沢が大好き。
以前は一枚のビフテキで満足していたのに、次第に口が奢って「あれが食べたい」「これが食べたい」と言い出す。
服への執着もすごくて、買ってあげないと拗ねるし、おかしな誘惑をしたりする。
結果、河合の貯金は尽きて、国の母親にお金の無心をすることに。
しかし、河合はこう思っている。
「私の本懐はナオミを少しでも身綺麗にさせて置くこと、不自由な思いやケチ臭いことさせないことでしたから、困る困ると愚痴りながらも彼女の贅沢を許していました」
三つ目──「お伽噺の家」の生活に満足できなくなる。
今までは河合との生活に満足していたのだが、次第に外に出たがるようになり、
「ソシアル・ダンス」を習いたいと言う。
河合はそれを許すが、そこでさまざまな男たちと出会う。
銀座のダンスホール・カフエ・エルドラドオでは、男たちに囲まれて女王様のようにふるまい、
西洋風に着飾った日本人のお嬢さんを「猿」と呼んでからかい、西洋人を前にすると卑屈になる。
こんなナオミに河合は失望する。
だが、河合は……
「私は失望しました。しかし一方で、ナオミの肉体は私を惹きつけてやみませんでした。
ナオミは頭脳の方では私の期待を裏切りながら、肉体の方ではいよいよますます理想通りに、いやそれ以上に美しさを増して行ったのです」
いやはやなんとも。
俗な言い方をすれば、
・恋の熱情
・執着の怖ろしさ
・マゾヒズムの男の心象
・女という生き物の怖ろしさ である。
奔放なナオミの行き着く先は当然浮気だ。
河合は怒り狂う。
「何だお前は! 己(おれ)に恥をかかせたな! ばいた! 淫売! じごく!」
この時の河合の心情はこうだ。
『私にとってナオミは成熟するまでに労力をかけて育てた果実と同じです。
だからそれを味わうのは栽培者たる私の当然の報酬であって、あかの他人にむしられ歯を立てられてはいけないのです』
何ともエゴイスティックな思いだが、二度と浮気をしないと誓ったのに、なおも浮気を重ねると
「出て行け! 畜生! 犬! 人非人! もう貴様には用はないんだ!」
結果、ナオミは出て行く。
河合は「清々した」といったん思うが、すぐに後悔して
「お前は馬鹿だぞ。ちっとやそっとの不都合があっても、あれだけの美は世間にありはしないぞ」と思うようになる。
ナオミは強い酒なのだ。
飲み過ぎると体に毒だと知りながら、その芳醇な香気を嗅がされ、なみなみと盛った杯を見せられると飲まずにはいられなくなる酒なのだ。
河合のナオミへの執着は、凄まじい人間の業である。
ナオミが稀代の悪女と言われるのはこのためである。
最終的にふたりがどうなるのかはネタバレになるので書かないが、
ラストはなかなか衝撃的、いや笑劇的だ!
微笑ましくて笑ってしまう。
たぶん、この結末で河合はものすごく幸せなのだと思う。