しらつゆも しぐれもいたく もるやまは したばのこらず いろづきにけり
白露も 時雨もいたく もる山は 下葉のこらず 色づきにけり
紀貫之
白露も時雨もひどく漏る守山では、下葉も残らず色づいたことだ。
詞書には「守山(もるやま)のほとりにてよめる」とあり、第三句の「もる」は白露や時雨が「漏る」意味と「守山」との掛詞ですね。守山のほとりで詠んだということですから、実際に現地に赴いた折にその情景をそのまま詠んだもの。「もる山」だけになるほど露も時雨もひどく漏れている、という言葉遊びと言うか機智と言うかといったところでしょうか。正直なところ「深み」のようなものは感じられませんが、その場の機転で当意即妙の歌を軽く詠んで見せたものでしょう。当時の宮廷歌人には必要不可欠に求められるスキルであったのだろうと想像します。