あきかぜの ふきあげにたてる しらぎくは はなかあらぬか なみのよするか
秋風の 吹き上げに立てる 白菊は 花かあらぬか 波の寄するか
菅原朝臣
秋風の吹く吹上の浜に咲く白菊は花であるのか、そうではなく海の波が寄せているのか。
白菊を海の白波に見立て、浜に咲いているのは白菊なのかそれとも打ち寄せる白波なのかと詠んでいますが、詞書によればこれは実際の風景ではなく「州浜」を見てのもの。「州浜」とは、今で言うジオラマ(模型)のようなもので、風景などを作り込んで眺めて楽しむものだったようです。
作者の「菅原朝臣(すがわらのあそん)」は菅原道真のこと。古今集にはこの歌の他に、百人一首(第24番)にも採られて著名な次の歌も入集しています。(0420)
このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに
このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに
また個人的には、拾遺和歌集に収録されている次の歌が心に残ります。大宰府に左遷されることとなり、失意の旅立ちに際して自宅の庭の梅を見やって詠んだもの。とても切ない心情です。なお、第五句の「はるをわするな」は後には「はるなわすれそ」と表記されるようになりました。そちらの方が良く知られていますね。
こちふかば にほひおこせよ うめのはな あるじなしとて はるをわするな
東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな
(拾遺和歌集 巻十六「雑春」)