たがための にしきなればか あきぎりの さほのやまべを たちかすくらむ
誰がための 錦なればか 秋霧の 佐保の山辺を 立ちかくすらむ
紀友則
一体誰のための錦だと思って、秋霧は佐保山の山辺に立って紅葉を隠しているのだろうか。
「さほのやま」は平城京の東に位置する丘陵。古来、桜の名所で、そのことから春を司る神が宿るとされ、女神である佐保姫信仰の地。西側で秋を司る竜田姫と対をなす神です。その桜の名所で秋の紅葉を詠んだ歌。梅を隠す闇、桜を隠す霞に対して、紅葉を隠す霧が歌われていますね。
佐保山を題材とした歌がここから三首続きます。