やどりせし ひとのかたみか ふぢばかま わすられがたき かににほひつつ
宿りせし 人の形見か 藤袴 忘られがたき 香ににほひつつ
紀貫之
宿をとった人がのこしていったものだろうか、この藤袴は。忘れることのできない香りを今もただよわせていることよ。
詞書に「藤袴をよみて、人につかはしける」とあり、この「歌を贈った人」が「宿りせし人」と同一人物と見るのが自然でしょうか。となると、家の庭に咲く藤袴の香りが、貫之の家に泊って行った人(もちろん異性でしょう)の残り香を思わせ、それが「忘れがたいのです」と切ない思いを伝えるラブレターということになるのでしょう。ただ、「女郎花」が女性を象徴するのに対して「藤袴」がその名から男性を象徴することを考えると、残り香が残した人物は男性であり、歌を贈ったのは女性ということになります。つまりこの歌は、土佐日記と同じく貫之が女性の立場から想像で詠んだ歌、ということになるのかもしれません。なかなかに難解です。 ^^;;