和俗童子訓(貝原益軒)巻之五 女子に教ゆる法・・3
女に四行あり。一に婦徳、二に婦言、三に婦容、四に婦功。
此四は女のつとめ行なふべきわざ也。
・婦徳とは、心だてよきを云。心貞(ただ)しく、いさぎよく、和順なるを徳とす。
・婦言とは、ことばのよきを云。いつはれる事をいはず。ことばをゑらびていひ、にげ(似気)なき悪言をいたさず。いふべき時いひて、ふ用なる事をいはず。人其いふ事をきらはざる也。
・婦容とは、かたちのよきを云。あながちに、かざりをもはら(専)にせざれども、女は、かたち(容)なよよかにて、おおし(雄々)からず、よそほひのあてはかに、身もちきれいに、いさぎよく、衣服もあかづきけがれなき、是婦容なり。
・婦功とは、女のつとむべきわざなり。ぬひ物をし、う(紡)み・つむ(績)ぎをし、衣服をととのへて、もはら(専)つとむべきわざを事とし、たはぶれあそび・わらふ事をこのまず。食物、飲物をいさぎよくして、しうと・おつと・賓客にすすむる、是皆婦功なり。
此四は女人の職分也。つとめずんばあるぺからず。心を用ひてつとめなば、たれもなるべきわざ也。おこたりすさみて、其職分をむなしくすべからず。
七歳より和字(かな)をならはしめ、又おとこもじ(漢字)をもたらはしむべし。淫思なきを古歌を多くよましめて、風雅の道をしらしむべし。是また男子のごとく、はじめは、数目ある句、みじかき事ども、あまたよみおぼえさせて後、孝経の首章、論語の学而篇、曹大家(そうだいこ)が女誡などをよましめ、孝・順・貞・潔の道をおしゆべし。十歳より外にいださず、閨門の内にのみ居て、おりぬひ、うみつむぐ、わざをならはしむべし。
かりにも、淫佚(いんいつ)なる事をきかせ知らしむべからず。小歌、浄瑠璃、三線の類、淫声をこのめば、心をそこなふ。かやうの、いやしきたぶ(狂)れたる事を以て、女子の心をなぐさむるは、あしし。風雅なるよき事をならはしめて、心をなぐさむべし。此比(ころ)の婦人は、淫声を、このんで女子にをしゆ。是甚(だ)風俗・心術をそこなふ。いとけなき時、悪き事を見聞・習ては、早くうつりやすし。
女子に見せしむる草紙も、ゑらぶべし。いにしへの事、しるせるふみの類は害なし。聖賢の正しき道をおしえずして、ざれ(戯)ばみたる小うた、浄瑠璃本など見せしむる事なかれ。又、伊勢物語、源氏物語など、其詞は風雅なれど、かやうの淫俗の事をしるせるふみを、はやく見せしむべからず。又、女子も、物を正しくかき、算数をならぶべし。物かき・算をしらざれば、家の事をしるし、財をはかる事あたはず。必これを教ゆべし。
女に四行あり。一に婦徳、二に婦言、三に婦容、四に婦功。
此四は女のつとめ行なふべきわざ也。
・婦徳とは、心だてよきを云。心貞(ただ)しく、いさぎよく、和順なるを徳とす。
・婦言とは、ことばのよきを云。いつはれる事をいはず。ことばをゑらびていひ、にげ(似気)なき悪言をいたさず。いふべき時いひて、ふ用なる事をいはず。人其いふ事をきらはざる也。
・婦容とは、かたちのよきを云。あながちに、かざりをもはら(専)にせざれども、女は、かたち(容)なよよかにて、おおし(雄々)からず、よそほひのあてはかに、身もちきれいに、いさぎよく、衣服もあかづきけがれなき、是婦容なり。
・婦功とは、女のつとむべきわざなり。ぬひ物をし、う(紡)み・つむ(績)ぎをし、衣服をととのへて、もはら(専)つとむべきわざを事とし、たはぶれあそび・わらふ事をこのまず。食物、飲物をいさぎよくして、しうと・おつと・賓客にすすむる、是皆婦功なり。
此四は女人の職分也。つとめずんばあるぺからず。心を用ひてつとめなば、たれもなるべきわざ也。おこたりすさみて、其職分をむなしくすべからず。
七歳より和字(かな)をならはしめ、又おとこもじ(漢字)をもたらはしむべし。淫思なきを古歌を多くよましめて、風雅の道をしらしむべし。是また男子のごとく、はじめは、数目ある句、みじかき事ども、あまたよみおぼえさせて後、孝経の首章、論語の学而篇、曹大家(そうだいこ)が女誡などをよましめ、孝・順・貞・潔の道をおしゆべし。十歳より外にいださず、閨門の内にのみ居て、おりぬひ、うみつむぐ、わざをならはしむべし。
かりにも、淫佚(いんいつ)なる事をきかせ知らしむべからず。小歌、浄瑠璃、三線の類、淫声をこのめば、心をそこなふ。かやうの、いやしきたぶ(狂)れたる事を以て、女子の心をなぐさむるは、あしし。風雅なるよき事をならはしめて、心をなぐさむべし。此比(ころ)の婦人は、淫声を、このんで女子にをしゆ。是甚(だ)風俗・心術をそこなふ。いとけなき時、悪き事を見聞・習ては、早くうつりやすし。
女子に見せしむる草紙も、ゑらぶべし。いにしへの事、しるせるふみの類は害なし。聖賢の正しき道をおしえずして、ざれ(戯)ばみたる小うた、浄瑠璃本など見せしむる事なかれ。又、伊勢物語、源氏物語など、其詞は風雅なれど、かやうの淫俗の事をしるせるふみを、はやく見せしむべからず。又、女子も、物を正しくかき、算数をならぶべし。物かき・算をしらざれば、家の事をしるし、財をはかる事あたはず。必これを教ゆべし。