和俗童子訓(貝原益軒)巻之五 女子に教ゆる法・・2
婦人は、人につかふるもの也。家に居ては父母につかへ、人に嫁しては舅姑・夫につかふるゆへに、慎みてそむかざるを道とす。もろこしの曾大家(注1)が言葉にも、「敬順の道は婦人の大礼なり」といへり(注1、ウキペヂア等によると、「曾大家とは漢の女流文人、班 昭(はん しょう)のこと。同じく歴史家・班固と、西域で活躍した武将である班超は兄。14歳で曹世叔に嫁ぎ、世叔の死後、彼女の才名を聞いた和帝が召し出して宮中に入れ、後宮后妃の師範とした。人々は敬して曹大家と称した。兄の班固が『漢書』を未完成のまま亡くなったので、書き継いで完成させた。その他、『女誡』7章、『続列女伝』2巻も彼女が選定したものと伝えられる。」)されば女は、敬順の二をつねに。守るべし。敬とは慎む也。順は従ふ也。慎むとは、おそれてほしゐままならざるを云。慎みにあらざれば、和順の道も行なひがたし。
凡そ女の道は順をたっとぶ、順のおこなはるるは、ひとへに慎みよりをこれり。詩経に、「戦々と慎み、競々とおそれて、深き淵にのぞむが如く、薄き氷をふむが如し。」、といへるは、をそれ慎む心を、かたどりていへり。慎みておそるる心もち、かくのごとくなるべし。
女は、人につかふるものなれば、父の家、富貴なりとても、夫の家にゆきては、其親の家にありし時より(も)、身を低くして、舅姑にへりくだり、慎みつかへて、朝夕のつとめおこたるべからず。舅姑のために衣をぬひ、食をととのへ、わが家にては、夫につかへてたかぶらず。みづからきぬ(衣)をたたみ、席を掃き、食をととのへ、うみ(麻・からむし等の繊維を細長くより合わせる)・つむぎ、ぬい物し、子をそだてて、けがれをあらひ、婢多くとも、万の事に、みづから辛労をこらへてつとむる、是婦人の職分なれば、わが位と身におうぜぬほど、引さがりつとむべし。
かくの如くすれば、舅、夫の心にかなひ、家人の心を得て、よく家をたもつ。又わが身にたかぶりて、人をさしつかひ、つとむべき事におこたりて、身を安楽におくは、舅ににくまれ、下人にそしられて、人の心をうしひ、其家をよくおさむる事なし。かかる人は、婦人の職分を失ひ、後のさいわひなし。慎むべし。
古、天子より以下、男は外をおさめ、女は内をおさむ。王后以下、皆内政をつとめ行なひて、婦人の職分あり。今の世の慣ひ、富貴の家の婦女は、内をおさむるつとめうとく、お(織)り・ぬ(縫)ひのわざにおろそかなり。古、わが日の本にては、かけまくもかしこき天照大神も、みづから神衣をおりたまひ、斎服殿(いんはたどの)にましましける。其御妹・稚日女尊(わかひるめのみこと)も亦しかり。是日本紀にしるせり。もろこしにて、王后みづから玄たんをおり給ふ。公侯の夫人、位貴しといへ共、皆、みづからぬのをおれり。今の士、大夫の妻、安逸にほこりて、女功をつとめざるは、古法にはあらず。
婦人は、人につかふるもの也。家に居ては父母につかへ、人に嫁しては舅姑・夫につかふるゆへに、慎みてそむかざるを道とす。もろこしの曾大家(注1)が言葉にも、「敬順の道は婦人の大礼なり」といへり(注1、ウキペヂア等によると、「曾大家とは漢の女流文人、班 昭(はん しょう)のこと。同じく歴史家・班固と、西域で活躍した武将である班超は兄。14歳で曹世叔に嫁ぎ、世叔の死後、彼女の才名を聞いた和帝が召し出して宮中に入れ、後宮后妃の師範とした。人々は敬して曹大家と称した。兄の班固が『漢書』を未完成のまま亡くなったので、書き継いで完成させた。その他、『女誡』7章、『続列女伝』2巻も彼女が選定したものと伝えられる。」)されば女は、敬順の二をつねに。守るべし。敬とは慎む也。順は従ふ也。慎むとは、おそれてほしゐままならざるを云。慎みにあらざれば、和順の道も行なひがたし。
凡そ女の道は順をたっとぶ、順のおこなはるるは、ひとへに慎みよりをこれり。詩経に、「戦々と慎み、競々とおそれて、深き淵にのぞむが如く、薄き氷をふむが如し。」、といへるは、をそれ慎む心を、かたどりていへり。慎みておそるる心もち、かくのごとくなるべし。
女は、人につかふるものなれば、父の家、富貴なりとても、夫の家にゆきては、其親の家にありし時より(も)、身を低くして、舅姑にへりくだり、慎みつかへて、朝夕のつとめおこたるべからず。舅姑のために衣をぬひ、食をととのへ、わが家にては、夫につかへてたかぶらず。みづからきぬ(衣)をたたみ、席を掃き、食をととのへ、うみ(麻・からむし等の繊維を細長くより合わせる)・つむぎ、ぬい物し、子をそだてて、けがれをあらひ、婢多くとも、万の事に、みづから辛労をこらへてつとむる、是婦人の職分なれば、わが位と身におうぜぬほど、引さがりつとむべし。
かくの如くすれば、舅、夫の心にかなひ、家人の心を得て、よく家をたもつ。又わが身にたかぶりて、人をさしつかひ、つとむべき事におこたりて、身を安楽におくは、舅ににくまれ、下人にそしられて、人の心をうしひ、其家をよくおさむる事なし。かかる人は、婦人の職分を失ひ、後のさいわひなし。慎むべし。
古、天子より以下、男は外をおさめ、女は内をおさむ。王后以下、皆内政をつとめ行なひて、婦人の職分あり。今の世の慣ひ、富貴の家の婦女は、内をおさむるつとめうとく、お(織)り・ぬ(縫)ひのわざにおろそかなり。古、わが日の本にては、かけまくもかしこき天照大神も、みづから神衣をおりたまひ、斎服殿(いんはたどの)にましましける。其御妹・稚日女尊(わかひるめのみこと)も亦しかり。是日本紀にしるせり。もろこしにて、王后みづから玄たんをおり給ふ。公侯の夫人、位貴しといへ共、皆、みづからぬのをおれり。今の士、大夫の妻、安逸にほこりて、女功をつとめざるは、古法にはあらず。