観音経を読誦して水難から助かった事
観音経には「由是菩薩威神力故。若為大水所漂。称其名号。即得浅処。
若有百千万億衆生。為求金。銀。瑠璃。車渠。瑪瑙。珊瑚。琥珀。真珠等宝。入於大海。仮使黒風吹其船舫。飄堕羅刹鬼国。其中若有乃至一人称観世音菩薩名者。是諸人等。皆得解脱羅刹之難。」とあります。
古来観音経を読誦して水難から助かった事は多くあります。
1,古今著聞集巻二「生智法師渡唐の時観音の利生を蒙る事」
ここかしこ修行する僧ありけり。名をば生智といふ。たびたび渡唐したりけるものなり。建長元年1249のころ、渡唐しけるに、悪風に合ひて、すでに船砕けんとしければ、こたうといふ小船に乗り移りにけり。船狭くして、百餘人ぞ乗りたりける。残りの輩は、もとの船に残りてありける。心中をし量るべし。
こたうに乗りて、十餘日ありけるに、水尽きて、すでに飢ゑて死なんとしける時、行衍房寲浄(不詳)といふ上人の乗たりける、「かやうにおのおの同心に観音経を丗三巻読み奉るべし。われも祈請し試みるべし」とて、左手の小指に燈心をまとひて、油を塗りて火をともして、燈明として、同じく経を読みけり。
丗三巻のおはり程になりて、南のかたより淡(あは)のごとくなる物、海の面に一段ばかりしらみ渡りて見えけるが、この船のもとへ流れ来るあり。「あやし」と思ひて、杓を下して汲みてみれば、少しも鹽の気もなき水の、めでたきにて有けり。人々これを汲み飲みて、命いきにけり。是併ながら観音の利生方便なり。世の末といひながら、大聖の方便、不可思議のことなり。
大船にすてのせられたりける者も、すでに限りなりけるに、いづくよりとも知らぬに船出で来て、この輩を移し乗せて、事故(ことゆゑ)なくかの岸へ着けてけり。これも観音の御助けありけるにや。
2,「坂東観音霊場記」の著者亮盛は桑名沖で時化にあい遭難しかかったとき観音経をあげ坂東を巡り霊場記をあらわすことを観音様に誓約して難を逃れている。
3,海軍中将の佐藤鉄太郎は日露戦争直後咸鏡道鍾城付近で大吹雪に逢い目標として航行していた「無水端」を見失い遭難必至となった。佐藤中将は観音信者であり「念彼観音力」と唱えようとしたが人前では恥ずかしくて声を出せない。一人で艦橋の上の海図台のところまでいき、雨覆いをすっぽりとかぶって一生懸命普門品を唱えた。漸く唱え終わって覆いから頭を出した瞬間西方はるか三哩くらいに目印の「無水端」が一瞬見えてすぐに吹雪にかき消された。そこで佐藤中将は航海長を呼び進路を指示して遭難を免れた、ということがあった(観音の霊験・中根環堂)。