矛盾論②
1.矛盾は論理的破綻を意味するが語源の矛(ほこ)盾(たて)がこの内容を最もよく表現している。中国の故事に イ. 何をもおも貫く矛を売る商人と、ロ. どの矛も受け止める盾を売る商人の話があり、両者の出会いが「矛盾」を生む。では両者あいまみえたら何が起きるか。矛が勝っても、盾が勝ってもまさに矛盾である。すなわち イ. が正しければ ロ. が成立せず、ロ. が正しければ イ. が成立しない。イ. と ロ. は同時に成り立たないという意味で論理的破綻が生じる。この矛盾をキーワードに前回の予告に従い市川惇信著「科学が進化する5つの条件」について解説したい。
2.インターネットのアマゾンをのぞきこの本に関する読後感を見ると評価が大きくわかれていることに気づく。5点法で4~5点と1~2点に二分されるのである。この著作に高い評価を与えている私には意外であった。市川氏は科学を実在世界(無矛盾の客観世界)から言語世界(矛盾を含む人間文化一般)への写像ととらえる。すなわち科学的言明は言語世界の特異的部分で矛盾を含まないこと(無矛盾)を第一義とする。1.で述べた矛盾は言語としては存在し得るが実在世界で破綻をもたらす。すなわち実在世界では矛盾的言明となる。科学はこうした矛盾的言明を許容しない。従って科学を人間文化の一部とすれはそれはごく限られた無矛盾(無矛盾写像)のみを扱う人間活動ということになる。ひらたく言えば科学は哲学も宗教も扱えないということになる。私が矛盾論①(前回)で「3者は相互排除的」と述べた理由の一端がここにある。
3.「科学の発展は矛盾の解消から生まれる」これが40年間科学世界で苦闘し続けた筆者の結論である。市川氏の主張「科学は矛盾世界を扱わない」と微妙に異なる。今年は世界天文年で色々な催し物が行われている。ガリレオが自作の天体望遠鏡で観測をはじめて400年目である。その天体観測中の発見(木星の衛星、月面上の山々など)が彼を地動説に導いた。天動説での矛盾は彼の観測の中に色々現われてきた。たとえば他の惑星の天体運動。地球を他の惑星と同等と捉えたときこの矛盾は解消し、地動説が生まれたのである。
4.物質的自然は容易に無矛盾化できたが、生物的自然は極めて困難であった。生物のデザインは神の創造を持ってしか説明し得ない程に複雑であり、神話時代は全ての民族で「偉大なデザイナー」を想像せざるを得なかった。しかし偉大なデザイナー説は生物デザインの多くの非合理的側面(人間の盲腸や化石)が明らかになるにつれ矛盾をもたらす。生物デザイン問題の無矛盾化はダーウィンの進化論により行われた。
5.最後に故事でいう「矛盾」をどう解消するかを考えてみよう。実在世界を念頭に置いてこの解消を考えると次の3つが浮かぶ。
)アレキサンダー大王流
何をもおも貫き通す矛と全てを防ぐ盾がぶつかると爆発して両者が壊れる。
)古典力学的解消法
矛も盾も貫き方、防ぎ方はall or nothingではない。矛の刃はある長さがあり、盾の厚みも有限である。従って両者がぶつかると矛は盾の厚みの半分までを貫くとなる。これで両者の面目が立つ。
)量子力学的解消法
量子力学は光の「波動性と粒子性」の矛盾を確率的概念の導入で解消した。これを応用すると2つの解<貫く>と<防ぐ>の重ね合わせとなる。
両者の衝突=<貫く>+<防ぐ>
現実にはこの衝突を複数回行うと半分の確率で貫き、半分の確率で防ぐということになる。
次回は「科学における無矛盾化」の意味を深化させたい。
永山國昭 (2009年6月2日)
1.矛盾は論理的破綻を意味するが語源の矛(ほこ)盾(たて)がこの内容を最もよく表現している。中国の故事に イ. 何をもおも貫く矛を売る商人と、ロ. どの矛も受け止める盾を売る商人の話があり、両者の出会いが「矛盾」を生む。では両者あいまみえたら何が起きるか。矛が勝っても、盾が勝ってもまさに矛盾である。すなわち イ. が正しければ ロ. が成立せず、ロ. が正しければ イ. が成立しない。イ. と ロ. は同時に成り立たないという意味で論理的破綻が生じる。この矛盾をキーワードに前回の予告に従い市川惇信著「科学が進化する5つの条件」について解説したい。
2.インターネットのアマゾンをのぞきこの本に関する読後感を見ると評価が大きくわかれていることに気づく。5点法で4~5点と1~2点に二分されるのである。この著作に高い評価を与えている私には意外であった。市川氏は科学を実在世界(無矛盾の客観世界)から言語世界(矛盾を含む人間文化一般)への写像ととらえる。すなわち科学的言明は言語世界の特異的部分で矛盾を含まないこと(無矛盾)を第一義とする。1.で述べた矛盾は言語としては存在し得るが実在世界で破綻をもたらす。すなわち実在世界では矛盾的言明となる。科学はこうした矛盾的言明を許容しない。従って科学を人間文化の一部とすれはそれはごく限られた無矛盾(無矛盾写像)のみを扱う人間活動ということになる。ひらたく言えば科学は哲学も宗教も扱えないということになる。私が矛盾論①(前回)で「3者は相互排除的」と述べた理由の一端がここにある。
3.「科学の発展は矛盾の解消から生まれる」これが40年間科学世界で苦闘し続けた筆者の結論である。市川氏の主張「科学は矛盾世界を扱わない」と微妙に異なる。今年は世界天文年で色々な催し物が行われている。ガリレオが自作の天体望遠鏡で観測をはじめて400年目である。その天体観測中の発見(木星の衛星、月面上の山々など)が彼を地動説に導いた。天動説での矛盾は彼の観測の中に色々現われてきた。たとえば他の惑星の天体運動。地球を他の惑星と同等と捉えたときこの矛盾は解消し、地動説が生まれたのである。
4.物質的自然は容易に無矛盾化できたが、生物的自然は極めて困難であった。生物のデザインは神の創造を持ってしか説明し得ない程に複雑であり、神話時代は全ての民族で「偉大なデザイナー」を想像せざるを得なかった。しかし偉大なデザイナー説は生物デザインの多くの非合理的側面(人間の盲腸や化石)が明らかになるにつれ矛盾をもたらす。生物デザイン問題の無矛盾化はダーウィンの進化論により行われた。
5.最後に故事でいう「矛盾」をどう解消するかを考えてみよう。実在世界を念頭に置いてこの解消を考えると次の3つが浮かぶ。
)アレキサンダー大王流
何をもおも貫き通す矛と全てを防ぐ盾がぶつかると爆発して両者が壊れる。
)古典力学的解消法
矛も盾も貫き方、防ぎ方はall or nothingではない。矛の刃はある長さがあり、盾の厚みも有限である。従って両者がぶつかると矛は盾の厚みの半分までを貫くとなる。これで両者の面目が立つ。
)量子力学的解消法
量子力学は光の「波動性と粒子性」の矛盾を確率的概念の導入で解消した。これを応用すると2つの解<貫く>と<防ぐ>の重ね合わせとなる。
両者の衝突=<貫く>+<防ぐ>
現実にはこの衝突を複数回行うと半分の確率で貫き、半分の確率で防ぐということになる。
次回は「科学における無矛盾化」の意味を深化させたい。
永山國昭 (2009年6月2日)