チベットの鳥葬は死体をハゲワシ等に施すことによりハゲワシが他の生物を害することを避けるという目的を持っているといいます。親鸞上人も「某閉眼(それがしへいがん)せば、賀茂河にいれて魚にあたうべし(改邪鈔)」とおっしゃっています。これも同じお考えと思われます。かんがえれば食物連鎖の頂点にいる人類は、他の生物の命を奪うだけで自らはなんの役にもたっていません。他の生物からみればまさに一番業の深い存在です。食物連鎖の世界は霊の世界から見れば逆転して食べられているほうが最も霊的位は高いということになるのではないかと思っています。これを証明するのが法隆寺の玉虫厨子の捨身飼虎図です。菩薩本生鬘論等をもとにしており、お釈迦様は前世で薩埵王子だったとき、飢えた虎とその7匹の子のためにその身を投げ与えて虎の命を救った、というおはなしです(注)。これは一見「弱肉強食」と見えるこの世界を真理の目で見たら逆になるということを説いているのではないかということです。われわれは生物の命を日々奪って生きながらえています。食物連鎖は厳然として宇宙の始まり以来続いていますがこれをどう考えていくかです。食べる側は「弱肉強食」ですが食べられる側は「捨身飼虎」です。われわれは日々犠牲となっている生物の「捨身飼虎」時の「願心」を汲み取ってはじめて許される存在となることができるのではないかと思うこの頃です。すべての「弱者」と「強者」との関係とはこういうものかもしれません。
(注、菩薩本生鬘論によればお釈迦様はこの薩埵王子で、当時の父親が今の淨飯王、后が摩耶夫人、兄が弥勒と文殊菩薩、虎が「姨母」、七匹の虎子は「大目乾連、舍利弗、五比丘是也」とあります。即ち願心をもった「捨身飼虎」という行為により関係者を「出離」せしめているのです。)
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