聖徳太子日本國未来記 太子厩戸奉勘之
大日本國末世の勘計也。自今已後、六百年の時節を過ぎて、両主位を諍ひ二臣世を論(あらそは)ん。黒鼠朝食を噉ひしかば、黄龍金殿に登らん。兄王西海に沉(しずみ)しかば、武士禁裏を汚さん。寶劒を失し而して兵乱を止ず。弟王無禪、而位に即。神璽明鏡武士に依りて再に宮闕に入り、藤華散廃して源葉三台に登らん。公家年年㐮廃し而武士度度興隆して日本一州悉く武家の領と為る。已に三代を經て、尼女将軍と為て弓馬の道を主り、三皇遠嶋流行して而武将朝廷を圍ん。爾時、佛法興隆し僧道繁栄せん。法華秘密の両宗、威を加て、天台不空の代に超て、戒律佛心の二家、正全して而も曇無達磨の時に勝らん。浄土の宗門興繁して恵遠善導の出世に同じ。王臣各信じ而も貴賤共に帰し、都鄙遠近流布するは唯極楽經戒なり。僧尼男女専修するは是念佛一行耳。爾時魔王波旬佛法に依て而も佛家を破んと為す。日域を奪領して而も鬼國と為んと欲す故に三人の眷属を遣して而も比丘形と為して邪法魔業を授く。而して日域の衆生惑ひて三悪道に堕んと欲す。彼の三比丘の第一、一徧法師と名く。念佛三昧に依りて私家を立て、邪義を弘む。女犯を許して而も侶尼一所に起臥し、鼠色の衣を著て而して黒衣を禁じ、踊躍念佛を修して而も六字の名号を汚し、人民を惑はせて而も往生の札を授け、悪病の人を集めて而て眷属となして、國郡に遊行し而も米錢を費やし、奇特を現じ而も諸人に信敬され、施主を引い而て為に地獄に堕す。蓋し以て斯の如き佛兼ねて鑑知して大乗経の中に此の旨を説きたまふ。所謂大般若経に云く、未来世の中、諸悪魔ありて正法を破んと欲するが故に變じて比丘の形となり、東海の中の小國に出生して徒黨を立て邪法を弘め、衆生を惑して地獄に堕さしむと。已上。大涅槃経に云、我が末法中に天魔破侚變じて沙門の形と作り、如来の正法に依らず私曲邪義を立て光明を弘め、殊勝の相を現じ國郡を廻り、佛名を唱ふ。衆生知らず深く信じて真実の僧の如く恭敬供養せば其の國に於いて七難を發す。一には大風の難。二には大水の難。三には大火の難。四には大旱難。五には大暑の難。六には大寒の難。七には大雪の難。又三災を起こさん。一には兵乱の灾。二には疾病の灾。三には飢饉の灾。已上。如来金言大乗妙文誠諦なる哉、仁王九十六世の帝、彼の徒黨を信じて、洛陽に於いて金の堂塔を造り、彼の法師を以て主と為し三年、七難を發し、七年に三灾を顕し、此の帝、武士の為に都を去りて吉野山へ潜幸して遂に還幸なく相継で王法棄廃せん。盛平九代の臣、彼の邪法を仰で相州に於いて道場を創き、彼の法師を以て住持比丘と為し、七年を經て中夏に至り小敵の為に傾けられ、一族二百餘人共に滅亡せん。深く慎んで遠慮すべき焉。第二に、日蓮法師と名く、法華経に依りて邪法を建て私門を作して誹謗を吐き、正法を僄(かろん)じ、神祇を軽して白衣を著して黒衣を厭ひ、經名を唱て念佛を忌む。札を書して門戸に押して以て自家の業と為し、佛戒を破して法華経に背き、僧の威儀に違て自ら禍を招く。別に廣經を持して狭きを説き、檀那を惑して餓鬼道に堕せしむ。内に釈尊の妙文に背き、外に天台教言に背く。故に王臣許さず、盗衆と名け、武士信ぜずして外道と呼ばん。故に以て此の黨等の信者の工男遊女仰くやからは商人漁夫のみならん。若し人有りて此の徒黨を信じて真実の如く恭敬供養するは五病を受けん。所謂一は盲。二は聾。三は瘖(おし)。四は痿(なえ)。五は瘡(かさぶた)。又七禍を得ん。一は瞋辱。二は打擲。三は縛せらる。四は閉籠。五は配流。六は呵責。七は尸曝。斯の如く現身中に於いて十悪事を被る。何ぞ況や後生にをいておや。魔王眷属、外道の棟梁の為の故を以て、大聖釈尊一切の諸菩薩、此の悪黨を鑑知して妙經の中に説示し玉ふ。所謂法華第一に曰、當来悪人、佛説一乗を聞て、迷惑して信受せず。法を破して悪道に堕せんと。已上(妙法蓮華經方便品第二「當來世惡人 聞佛説一乘 迷惑不信受 破法墮惡道 有慚愧清淨 志求佛道者 當爲如是等 廣讃一乘道」)。同經第五に云、悪世の中、比丘邪智心諂曲、未得にして得たりと謂て我慢心充満、利養に貪著する故に白衣と説法し世の為に恭敬される所となる、六通(神足通・天眼通・天耳通・他心通・宿命通・漏尽通)羅漢の如し。此の經典を自作して世間の人を誑惑して名聞を求為す。故に分別して是の經を説く。濁劫悪世の中、多く諸の恐怖あり。悪鬼其の身に入り我を罵詈毀辱す。濁世の悪比丘、佛の方便随宜所説の法を知らず悪口して顰蹙数數、擯出せられん。已上。(勧 持 品 第 十三「即時に諸の菩薩、倶に同じく声を発して、偈を説いて言さく、
唯願わくは慮いしたもう為からず、仏の滅度の後の 恐怖悪世の中に於いて 我等当に広く説くべし
諸の無智の人の 悪口罵詈等し 及び刀杖を加うる者有らん 我等皆当に忍ぶべし
悪世の中の比丘は 邪智にして心諂曲に 未だ得ざるを為れ得たりと謂い 我慢の心充満せん
或は阿練若に 納衣にして空閑に在って 自ら真の道を行ずと謂いて 人間を軽賎する者有らん 利養に貪著するが故に 白衣の与に法を説いて 世に恭敬せらることを為ること 六通の羅漢の如くならん 是の人悪心を懐き 常に世俗の事を念い 名を阿練若に仮って 好んで我等が過を出さん
而も是の如き言を作さん 此の諸の比丘等は 利養を貪るを為っての故に 外道の論議を説く 自ら此の経典を作って 世間の人を誑惑す 名聞を求むるを為っての故に 分別して是の経を説くと
常に大衆の中に在って 我等を毀らんと欲するが故に 国王大臣 婆羅門居士 及び余の比丘衆に向って 誹謗して我が悪を説いて 是れ邪見の人 外道の論議を説くと謂わん
我等仏を敬うが故に 悉く是の諸悪を忍ばん 斯れに軽しめて 汝等は皆是れ仏なりと言われん 此の如き軽慢の言を 皆当に忍んで之を受くべし
濁劫悪世の中には 多く諸の恐怖有らん 悪鬼其の身に入りて 我を罵詈毀辱せん 我等仏を敬信して 当に忍辱の鎧を著るべし 是の経を説かんが為の故に 此の諸の難事を忍ばん 我身命を愛せず 但無上道を惜しむ 我等来世に於いて 仏の所嘱を護持せん
世尊自ら当に知しめすべし 濁世の悪比丘は 仏の方便 随宜所説の法を知らずして 悪口して顰蹙し 数数擯出せられ 塔寺を遠離せん 是の如き等の衆悪をも 仏の告敕を念ふが故に 皆当に是の事を忍ぶべし」)。深く法華経を信じて受持読誦書写解説如法如説修行の輩、深くこの悪知識を禁じて専ら正法の沙門を信ずべき耳。第三に、親鸞法師と名く者、諸佛を信ぜず専ら一佛を信じ、諸法を修せず偏に一法を行ず。諸僧を供養せず、自作の法師を供養し黒衣の袈裟を著せず、鼠色の白衣を整ふ。戒律を受持せず、女犯を許し、斎食を行はず肉味を噉ひ、佛寺を汚し神社を汚す。俗男俗女を集て亡者を吊るし、以て自家の為體となす。帰入の輩を惑して畜生道に堕せしむ。故に王臣許さずして犬衆と名く。将守信ぜずして悪黨と名く。此の一黨、佛法僧の儀式に違き、王侯将守の法度に背く。是兵乱の因縁亡國の基、禁じて深く禁ずべし。退治して猶退治すべき者なり。日域末世の中、彼の三悪魔流布せん。見聞すと雖も禁断せずんば、六天の魔王、便を得て異國の蒙古歓喜を為し、牛馬人の如く言語し、魚膾羽を生じて虚空を飛び、巌石眼口を現し、夜半日輪を見、北方月輪を出さん。
大日本國未来記 終