「さよなら花ちゃん」
令和二年二月靖国神社社頭掲示より「さよなら花ちゃん」
陸軍上等兵 餌取哲夫の命 昭和十九年十月十四日 中華民国湖南省郡陽県(現在の中華人民共和国湖南省。洞庭湖の南)にて戦死。 大阪府岸和田市出身。25歳。
「会ひたかったけど会えへずに行きます。子供の顔も見たいけれどもこれも運命だ。致し方なし。今日あたり發たうと思ってゐるところへ電報が舞ひ込んで来た。まさかこんなに早く来るとは思はなかったので一寸まごついた。お前や子供の事ばかりが頭に浮んで熱病につかれたやうな気がする。
まあしかし愚痴はよさう。お前も僕の妻らしくあっさりと諦めて待ってゐておくれ。日頃の僕の注意をよく守ってね。母上の事もよろしく頼みます。(中略)
お前の写真ももらったよ。戦友が良い女房を持ってゐると羨ましがってゐた。真っ赤になったけれどやはり嬉しかった。当分手紙は出せないと思ふけれどやがて出せるやうになったらどしどし出す。赤ん坊の写真撮れるやうになったら撮って頼む。どんな顔してるかなあ、楽しみだよ。(中略)
花ちゃん、だけど今一度会ひたいねえ。しかしこれは誰も悪くないんだ。やはり運命のいたずらだよ。そのことはもう言ふまい。
そのうち矢の如き光陰を送る事ができるよ。
さよなら花ちゃん。さよなら暁子。さよなら僕の第二世君。元気でね。元気でね。
僕はもう軍人らしく何も言はない。
たのむよ。たのむよ。 哲夫
花子殿」
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