大乗本生心地観経報恩品(全品書き下し)4/5
大乘本生心地觀經卷第二・大唐罽賓國三藏般若奉詔譯
報恩品第二之上
(ここからいよいよ報恩品を書き下していきます。報恩品は二巻と三巻に渡って説かれていますが、まず第二巻では五百長者が「近親者を捨てて出家するような残酷な大乗の修行は、まず涅槃を得てそれから衆生を救うという二乗に劣るという。」というのに対し仏は四恩を説き四恩は平等と説く。また有名な「母の十徳」「聖王の十徳」「三宝の十徳」を説く。そして四恩に報ずるためには「十の眞實波羅蜜多」に努めよと説く。眞實波羅蜜多とは「無上大菩提心を發起し無所得に住し、諸衆生を勸めて同じ此の心を発し眞實法を以て一四句偈を一衆生に施し、向無上正等菩提に向かはしめば是を名て眞實波羅蜜多と名ずく」とする。)
「爾時世尊、安詳として三昧より起ち、彌勒菩薩摩
訶薩に告げて言く「善哉善哉。汝等大士。諸善男子。
世間之父に親近せんと欲するが為の故に、出世之法を聽聞せんと欲するが為の故に、如如之理(真如)を思惟せんと欲するが為の故に、如如之智を修習せんと欲するが為の故に、佛所に來詣し供養恭敬す。我今、心地妙法を演説し衆生を引導して佛智に入らしめん。如是の妙法は諸佛如來、無量劫を過ぎて時に乃ち之を説く。如來世尊の世に出興したまふに値遇すること甚だ難きことは優曇華の如し。假使へ如來世に出現したまふも、此妙法を説きたまふこと亦復た難しと為す。所以は何かんとなれば、一切衆生は大乘菩薩行願を遠離して、聲聞縁覺の菩提に趣向し、生死を厭離して永く涅槃に入り、大乘の常樂の妙果をねがはざればなり。
然るに諸如來は法輪を転ずるに四失(以下に出る)を遠離して相應法を説く。(四失とは)
一に無非處。二に無非時。三に無非器。四に無非
法。應病與藥し復除を得しめたまふ。即是ち如來不共の徳なり。聲聞縁覺未だ自在を得ず。諸菩薩衆不共之
境なり。是の因縁を以て菩提正道・心地法門は難見難聞なり。若し善男子善女人ありて、是妙法を聞き一經於耳し須臾之頃も攝念觀心し無上大菩提種を熏成せば、久しからずして當に菩提樹王金剛寶座に坐して、阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得べし。」
爾時、王舍大城(ラージヒル)に五百長者あり。其名を妙徳長者・勇猛長者・善法長者・念佛長者・妙智
長者・菩提長者・妙辯長者・法眼長者・光明長者・滿願長者という。如是等の大富長者は正見を成就し、如來及諸聖衆を供養す。是の諸長者は世尊の大乘心地法門を讚歎したまふを聞きて、是の念を作す。「我、
如來の金色光を放ち菩薩の難行苦行を影現したまふを見るに、我は苦行を行ふ心を愛樂せず。誰か能く永劫に生死に住して而も衆生の為に諸苦惱を受くることを好まんや」と。是の念を作し已って即ち座より起ち、偏袒右肩右膝著地合掌恭敬して異口同音に前んで
白佛言「世尊よ。我等大乘諸菩薩行をねがはず。
亦た苦行の音聲を聞くを喜ばず。所以者何、一切菩薩所修の行願は、皆な悉く是れ知恩報恩にあらず。何以故。父母を遠離して出家に趣き、自の妻子を以て欲っする所に施し、頭目髄腦其の願求に隋って悉く皆な布施し諸逼惱を受けて三阿僧祇劫に具に八萬四千波羅蜜行を修し生死の流を越へ、方めて菩提大安樂處に至る。(このような残酷な大乗の修行は以下ようにまず二乗により涅槃を得てそれから衆生を救う方法に劣るという。)二乘の道果に趣向して三生百劫に資糧を修集し生死因を斷じ、涅槃の果を證し速かに安樂に至り方はじめて報恩と名くるに如かず」と。
爾時佛、五百長者に告げてたまはく「善哉善哉。汝等大乘を讚歎するを聞きて、心に退轉を生ず。妙義を發起して未來世中に恩徳不知の一切衆生を利益安樂せん。諦聽諦聽、善く之を思念せよ。我今、汝の為に分別して世出世間の有恩之處を演説せん。善男子、汝等の所言は未だ正理にかなわず。何以故。世出世の恩に四種あり。一に父母の恩。二に衆生の恩。三に國王の恩。四に三寶の恩なり。如是の四恩は一切衆生
平等に荷負す。善男子。父母の恩とは、父に慈恩あり。母に悲恩あり。母の悲恩とは若し我れ世に住して一劫中に説くとも盡す能わず。我今汝の為に少分を宣説せん。假使へ人あり、福徳のための故に、一百の淨行大婆羅門、一百の五通諸大神仙、一百の善友を恭敬供養せんに、七寶上妙堂内に安置し、百千種の上妙珍膳を以てし、諸瓔珞衆寶衣服を垂れ、栴檀沈香の諸房舍をたて、床臥敷具を百寶莊嚴し、衆病療治の百種湯藥、一心供養して百千劫に滿つるも、一念の孝順心に住して微少物を以て悲母を色養し隨所に供侍するに如かず。前の功徳を比するに、百千萬分にして不可校
量なり。世間の悲母の子を念ずること無比なり。恩は未形(妊娠中)に及ぶ。始め受胎より十月の終わりまで、行住坐臥に諸苦惱を受くること口の所宣にあらず。欲樂する飮食衣服を得ると雖も愛を生ぜず。憂念之心は恒に休息するなし。但だ自ら思惟するのみなり。
將に生産せんと欲するや漸く諸苦を受け晝夜愁惱す。若し産難時は百千刃の競って來りて屠割するが如し。或は無常を致すこと有り(死ぬこともある)。若し苦惱なければ諸親眷屬の喜樂無盡なり。猶し貧女の如意珠を得たるが如し。其子聲を發するや、音樂を聞くが如し。母の胸臆を以て寢處と為し、左右膝上を常に遊履と為す。胸臆中に甘露泉あり、長養之恩は普天に彌わたり、憐愍之徳は廣大無比なり。世間の高しとする所は山岳に過ぎたるはなし。悲母之恩は須彌にこゆ。世間之重は大地を先と為す。悲母之恩は亦た彼に過ぐ。若男女ありて恩に背き順ぜず、其父母をして怨念の心を生ぜしめ、母をして惡言を発せしむれば子即ち
隨墮す。或は地獄餓鬼畜生に在らむ。世間之疾は猛風に過ぎたるはなし。怨念之徴は復た彼よりも速かなり。一切如來金剛天等及五通仙も救護すること能はず。若し善男子善女人、悲母の教に承順無違ならば諸天護念し福樂無盡なり。如是の男女を即ち尊貴天人種類と名く。或は是れ菩薩の衆生を度せんが為に、現に男女となって父母を饒益す。若し善男子善女人、母恩に報ぜんが為に一劫を経て毎日三時に自身の肉を割き以って父母を養ふとも未だ一日之恩だにも報ずる能はず。所以者何。一切の男女は胎中に處して口に乳根を吮ひ母血を飮噉す。出胎し已るに及んで幼稚之前に所飮の母乳は百八十斛なり。母は上味を得れば先ず其子にあたへ、珍妙衣服も亦復た如是なり。愚癡鄙陋も情愛無二なればなり。昔女人あり、佗國に遠遊し所生子を抱きて殑伽河(ガンジス河)を渡る。其水暴漲して力前進むこと能ず。愛念して捨てず母子倶に沒す。是の慈心善根力の故に即ち色究竟天に上生して大梵王と作る。
是の因縁を以て、母に十徳有り。一は名て大地、母胎中に所依となる故に。二は名て能生、衆苦を經歴して而も能く生ずる故に。三は名て能正、恒に母手を以て五根を理おさめるが故に。四は名て養育、四時宜に隨って能く長養するが故に。五は名て智者、能く方便を以て智慧を生ずるが故に。六は名て莊嚴、妙瓔珞を以て而も嚴飾するが故に。七は名て安隱、母の懷抱を以て止息と為せば故り。八は名て教授、善巧方便して子を導引するが故に。九は名て教誡、善言辭を以て衆惡を離れしむるが故に。十は名て與業、能く家業を以て子に付囑するが故に。善男子よ、諸世間において何が最富、何が最貧なるや。悲母在堂、之を名て富となす。悲母不在、之を名て貧と為す。悲母在時を名て日中と為す。悲母死時を名て日沒と為す。悲母在時を名て月明と為し、悲母亡時を名て闇夜と為す。是故に汝等、勤加修習して父母に孝養せよ。若し人、仏に供すると福は等しく異なるなきなり。應當に如是に父母の恩に報ぜよ。
善男子よ、衆生の恩とは、即ち無始よりこのかた一切衆生は五道を輪轉して百千劫を經る。多生中において互に父母となる。互に父母となるを以ての故に一切の男子は即ち是れ慈父、一切の女人は即ち是れ悲母なり。昔生生中に大恩あるが故に猶ほ現在の父母の恩の如く等無差別なり。如是の昔の恩猶未だ報ずる能はず。或は妄業に因って諸違順を生じ、執著を以ての故に反って其怨を為す。何以故。無明は宿住智明(前世を知る智慧)を覆障し、前生に曾って父母たりしを了ぜざるを以てなり。ゆえに報恩し互に饒益たるべし。無饒
益者を名て不孝と為す。是の因縁を以て諸衆生類は一切時において亦た大恩あり。實に難ひ報しとなす。如是の事を名て衆生恩となす。
國王の恩とは福徳最勝なり。人間に生ずると雖も自
在を得るを以ての故に。三十三天の諸天子等は恒に其の力を與へて常に護持するが故に。其の國界における山河大地・盡大海際は國王に屬し、一人の福徳は一切衆生の福に勝過るが故に。是の大聖王は正法を以て化し、能く衆生をして悉く皆な安樂ならしむ。譬ば世
間の一切の堂殿は柱を根本と為すがごとく、人民の豐樂は王を根本と為し、王に依って有る故に。亦た梵王の能く萬物を生ずるが如く、聖王は能く治國之法を生じて衆生を利する故なり。日天子の能く世間を照らすが如く、聖王も亦た能く天下を觀察して人をして安樂ならしむる故なり。
王もし正治を失へば人は所依なし。若し正を以て化せば(以下に述べる)八大恐怖は其國に入らず。所謂、他國侵逼、自界叛逆、惡鬼疾病、國土飢饉、非時風雨、過時風雨、日月薄蝕、星宿變怪なり。人王は化を正しうして人民を利益すれば如是の八難は侵すこと能はざるが故に。譬ば、長者に唯一子あり、愛念無比憐愍饒益し常に安樂を與へて晝夜捨てざるが如し。國の大聖王も亦復た如是なり。等しく群生をみること同一子の如し。擁護の心は晝夜捨つることなし。如是の人王は十善を修せしめば、名て福徳主となす。若し修せしめざれば名て非福主となす。所以者何。若し王國内に一人の修善あれば其の所作の福は皆な七分となる。造善之人は其五分を得、彼の國王は常に二分を獲るを以てなり。善く王に因って修するが故に福利を同じゅうする故に。
十惡業を造るも亦復た如是なり。其の事を同じゅうするが故なり。一切國内の田地園林所生之物も皆な七分と為すも亦復た如是なり。若し人王ありて正見を成就して、如法に世を化せば名て天主となす。天善の法を以て世間を化すが故なり。諸天善神及護世王は、常に來って王宮を加護するが故に。人間に處すと雖も天業を修行し、賞罰之心は偏黨無きが故に。一切の聖王の法も皆な如是なり。如是の聖王を名て正法王となす。是の因縁を以て十徳を成就す。一に名て能照、智慧眼を以て世間を照らすが故に。二に名て莊嚴、大福智を以て國を莊嚴するが故に。三に名て與樂、大安樂を以て人民に與ふるが故に。四に名て伏怨、一切の怨敵は自然に伏するが故に。五に名て離怖、能く八難をしりぞけ恐怖を離る故に。六に名て任賢、諸賢人集まり國
事を評ずるが故に。七に名て法本、萬姓の安住するは國王に依るが故に。八に名て持世、天王の法を以て世間を持するが故に。九に名て業主、善惡の諸業は國王に屬する故に。十に名て人主、一切の人民は王を主と為す故に。一切の國王は先世の福を以て如是の十種の勝徳を成就す。大梵天王及び忉利天は常に人王を助けて勝妙樂を受けしめ、諸羅刹王及び諸神等は身を現ぜずと雖も王及び眷屬を潛來衞護す。王、人民の諸不善を見て制止する能はずんば、諸天神等は悉く皆な遠離す。若し修善を見れば歡喜讃歎して盡く皆な唱して「我之聖王」と言ひ、龍・天は喜悦して甘露雨を澍そそぎ、五穀成熟・人民豐樂なり。若し諸惡人等に親近せずして世間を普利し咸く正化に従へば、如意寶珠は必ず王國に現じ、王の隣國におけるものは咸く來りて歸服し、人と非人と稱歎せざるなけん。若し惡人ありて王國内に於いて逆心を生ぜば如是之人の福は自ら須臾の頃に衰滅し命終には當に地獄の中に堕し畜生を經歴して備つぶさに諸苦を受けん。所以者何。聖王にたいして恩を知らざるが故に諸惡逆を起こし如
是の報を受くるなり。若し人民ありて能く善心を行じ仁王を敬輔し佛の如く尊重せば、是人は現世安隱豐樂にして有所の願求は心に稱はざるなし。所以者何。一切國王は過去時において曾って如來清淨禁戒を受け、常に人王となりて安隱快樂なりしなり。
是因縁を以て違順の果報は皆な響の應ずるが如し。聖王の恩徳は廣大なること如是なり。
善男子よ、三寶の恩は名て不思議となす。衆生を利樂して休息あることなし。是の諸佛の身は眞善無漏にして無數大劫に因を修して證する所なり。三有の業果は永しへに盡きて餘すところなし。功徳の寶山は巍巍として無比なり。一切の有情の能く知る能はざるところなり。福徳甚深にして猶ほ大海の如し。智慧の無礙なること虚空に等し。神通變化して世間に充滿し、光明は遍く十方三世を照す。一切衆生は煩惱業障都て覺知せず、苦海に沈淪して生死無窮なり。三寶は出世して大船師と作り、能く愛流を截ちて彼岸に超昇す。諸の有智の者は悉く皆な瞻仰す。
善男子等。唯一の佛寶に三種身を具す。一に自性身。二に受用身。三に變化身。第一の佛身に大斷徳(差別相を断ずる徳)有り。二空(人空・法空)の所顯は一切諸佛悉く皆な平等なり。第二の佛身に大智徳あり。眞常無漏にして一切諸佛悉く皆な同意なり。第三の佛身に大恩徳あり。定通變現にして一切諸佛は悉く皆な同事なり。善男子。其自性身は無始無終なり。一切の相を離れて諸戲論を絶す。周圓無際・凝然常住なり。其の受用身に二種相あり。一に自受用。二に他受用。自受用身とは三僧祇劫に所修の萬行、諸衆生を利益安樂ならしめ已って十地滿心(に至り)運身して直ちに色究竟天に往き三界を出過して淨妙國土にいき、無
數量の大寶蓮華に坐す。而して不可説海會の菩薩に前後を圍遶せられ無垢繒を以て頂上に繋けられ、供養恭敬尊重讃歎せらる。如是を名けて後報利益と為す。
爾時、菩薩は金剛定に入り、一切微細の所知障と諸煩惱障を斷除して阿耨多羅三藐三菩提を證得す。如是の妙果を名て現報利益となす。
是の眞報身は有始無終にして壽命・劫數は限量あることなし。初め成正覺より未來際を窮む。諸根の相好は法界に徧周して四智圓滿す。是れ眞報身の受用法樂なり。一に大圓鏡智なり。異熟識(阿頼耶識の別名)を轉じて此の智慧を得る。大圓鏡の諸色像を現ずるが如し。如是の如來鏡智之中に能く衆生の諸善惡業を現ず。
是の因縁を以て、此の智を名て大圓鏡智と為す。大悲の故に恒に衆生を縁じ、大智に依るが故に常に法性に如す。眞俗を雙觀して間斷あることなし。常に能く無漏根身を執持して一切功徳の依止する所と為す。
二に平等性智。我見識を轉じて此の智慧を得る。是れを以て自佗平等二無我の性を能證す。如是を名て平等性智と為す。
三に妙觀察智。分別識(第六識である意識)を轉じて此の智慧を得る。能く諸法の自相共相を観じ、衆會の前において諸妙法を説き、能く衆生をして不退轉を得しむ。是を以て名て妙觀察智と為す。
四に成所作智。五種の識(前五識)を轉じて此の智慧を得る。能く一切種種の化身を現じて諸衆生をして善業を成熟せしむ。是の因縁を以て名て成所作智と為す。如是の四智を上首と為し、八萬四千の智門を具足す。如是の一切諸功徳の法を名て如來自受用身と為す。
諸善男子。二に如來他受用身とは、八萬四千の相好を具足し眞淨土に居り一乘法を説き、諸菩薩をして大乘微妙の法樂を受用せしむなり。一切如來は十地諸菩薩衆を化せんが為に、十種の他受用身を現ず。第一に佛身。百葉蓮華に坐して初地の菩薩の為に百法明門(菩薩が初地の位において得る法門のことで、あらゆる法門を明瞭に通達した智慧の意)を説く。菩薩悟り已って大神通を起こし變化して百佛世界に滿ち無數の衆生を利益安樂す。
第二の佛身は、千葉蓮華に坐し、二地の菩薩の為に千法明門(二地の菩薩の千種の法の智慧)を説く。菩薩悟り已りて大神通を起し變化して千佛世界に滿ち、無量衆生を利益安樂す。
第三の佛身は、萬葉蓮華に坐し三地菩薩の爲に萬法明門を説く。菩薩悟り已りて大神通を起こし、變化して萬佛國土に満ち、無數衆生を利益安樂す。如是に如來は漸漸増長し乃至十地他受用身は不可説妙寶蓮華に坐して十地の菩薩の為に不可説の諸法明門を説く。菩薩は悟り已って大神通を起こし變化して不可説佛の微妙國土に満ち不可宣説不可宣説無量無邊種類衆生を利益安樂す。
如是の十身は皆な七寶菩提樹王に坐して阿耨多
羅三藐三菩提を證得す。諸善男子よ、一一の華葉を各各一の三千世界と為し、各に百億の妙高山王及び四
大洲・日月星辰・三界諸天ありて具足せざるなし。一一の葉上の諸贍部洲に金剛座菩提樹王あり、其の百
千萬より不可説に至る。大小の化佛は各の樹下に於いて魔軍を破り已って一時に阿耨多羅三藐三菩提を證得す。如是の大小諸化佛身は各各の三十二相八十
種好を具足し諸資粮及び四善根諸菩薩等二乘凡
夫の為に隨宜に三乘の妙法(以下に云うところの、一に声聞乗の四諦、二に縁覚乗の十二因縁、三に菩薩乗の六度)を説く。諸菩薩の為には應ずるところの六波羅蜜を説き、阿耨多羅三藐三菩提を得しめ、佛慧を究
竟せしむ。求辟支佛者の為には、應ずるところの十二因縁法を説く。聲聞を求める者の為には應ずるところの四諦法を説き生老病死を度し涅槃を究竟せしむ。餘の衆生の為には人天教を説き人天の安樂妙果を得しむ。諸如是等の大小化佛を皆悉く名けて佛變化身となす。
善男子よ、如是の二種の應化身佛は滅度を現ずと雖も、而も此の佛身は相續して常住なり。諸善男子よ、一の佛寶に如是等の無量無邊の不可思議ありて衆生を利樂する廣大恩徳あり。是の因縁を以て名て如來應正遍知明行圓滿善逝世間解無上士調御丈夫天人師佛世尊となす。善男子よ、一佛寶中に六種の微妙功徳を具す。一には無上大功徳田。二には無上大恩徳あり。三には無足二足及多足の衆生中の尊なり。四には極めて値遇しがたきこと優曇華の如し。
五には三千大千世界に獨だ一り出現す。
六には世出世間の功徳、一切義を圓滿す。如是等の六種功徳を具して常に能く一切衆生を利樂す。是を名て佛寶不思議の恩となす。
爾時、五百の長者は白佛言、「世尊よ、佛所説の如くんば一佛寶中に無量の化佛あり。世界に充滿して衆生を利樂すと。しかるに何の因縁を以てか世間の衆生は多く佛を見ずして諸苦惱を受くや」。
佛、五百長者に告ぐ「譬ば日光天子は百千光を放ちて
世界を照明すれども而も盲者ありて光明を見ざるが如し。汝善男子よ、意において云何。日光天子に而も過ありや否や」。時に長者言く「不也、世尊。」
佛言く「善男子。諸佛如來は常に正法を演じて衆生を利樂すれども是の諸衆生は常に惡業を造り都て覺知せず。慚愧の心なし。佛法僧において親近を楽ねがはず。如是の衆生は罪根深重、無量劫を経るとも三寶の名字すら見聞するを得ず。彼の盲者の日光を覩みざるがごとし。若し衆生ありて如來を恭敬し大乘を愛樂し三寶を尊重せば、當に知るべし是の人は業障を銷除し福智増長・成就善根・速得見佛・永離生死・當證菩提す。
諸善男子よ、一佛寶に無量の佛あるが如く、如來所説の法寶も亦た然なり。一法寶中に無量の義あり。善男子よ、法寶中に四種あり。一者教法。二者理法。三者行法。四者果法。一切無漏の能く無明煩惱業障を破する聲名・句文を名けて教法と為す。有無の諸法を名けて理法と為す。戒定慧行を名けて行法と為す。無爲の果を名けて果法と為す。如是の四種を名けて法寶となす。衆生を引導して生死海を出て彼岸に到らしむ。善
男子。諸佛の師とするところは即ち是れ法寶なり。所以者何。三世の諸佛は法に依って修行し一切障を斷じ菩提を得成し盡未來際に衆生を利益するをもってなり。是の因縁を以て三世の如來は常に能く諸波羅蜜微妙法寶を供養す。何況んや三界一切の衆生の未得解脱のもの而も能く微妙法寶を敬せざるべけんや。
善男子。我昔曾って求法の為に人王となる。大火坑に入りて而も正法を求め、永く生死を断じて大菩提を得る。是故に法寶は能く一切の生死の牢獄を破る。猶ほ金剛の能く萬物を壊すが如し。法寶の能く癡闇衆生を照すこと日天子の能く世界を照らすが如し。法寶は能く貧乏衆生を救ふこと摩尼珠の衆寶雨ふらすがごとし。法寶の能く衆生に喜樂を與ふること猶し天鼓の諸天を樂しまする如し。法寶は能く諸天の寶階たり、正法を聽聞して生天するを得るが故なり。法寶は能く
堅牢大船たり。生死海を渡して彼岸に到らしむ故に。法寶は猶ほ轉輪聖王の如し。能く三毒の煩惱賊を除くが故に。法寶は能く珍妙衣服たり。無慚の諸衆生を覆蓋する故に。法寶は猶ほ金剛甲冑の如し。能く四魔を破し菩提を證するが故に。法寶は猶ほ智慧の利劍の如し。生死を割斷し繋縛を離れしむるが故に。法寶は
正に是れ三乘寶車なり。衆生を運載して火宅を出しむるが故に。法寶は猶ほ一切明燈の如し。能く三塗黒闇處を照すが故に。法寶は猶ほ弓箭矛矟の如し。能く國界を鎭め怨敵を摧くが故に。法寶は猶ほ險路の導師の如し。善く衆生を誘ひて寶所に達せしむるが故に。善
男子よ、三世の如來所説の妙法は如是等の難思議の事あり。是を名けて法寶不思議の恩となす。
善男子。世出世間に三種の僧あり。一に菩薩僧。二に聲聞僧。三に凡夫僧。文殊師利及び彌勒等は是れ菩薩僧。舍利弗・目犍連等の如きは是れ聲聞僧。若し別解脱戒(律の個条書)を成就せる眞善の凡夫、乃至一切正見を具足して能く廣く他の為に衆の聖道法を演説開示し衆生を利樂するは名けて凡夫僧となす。
未だ能く無漏戒定及び慧解脱を得るあたわずと雖も而も彼を供養する者は無量の福を獲る。如是の三種を名けて眞の福田僧となす。復た一類あり。名て福田僧となす。佛舍利及び佛形像并に諸法僧・聖の所制の戒において深く敬信を生じ、自ら邪見なく、他をして亦た然らしめ能く正法を宣じ一乗を讃歎し、因果を深信し常に善願を發し其過犯に随って業障を悔除す。當に知るべし是の人は三寶を信ずる力、諸外道に勝ること百千萬倍にして亦た四種の轉輪聖王(金、銀、銅、鐵)にも勝れり。何ぞ況んや餘類の一切衆生をや。欝金華(うこんげ・サフラン)の萎悴すると雖も猶ほ一切諸雜類華に勝るが如し。正見の比丘も亦復た如是なり。餘衆生に勝ること百千萬倍、禁戒を毀つと雖も正見を壞らず。是の因縁を以て名て福田僧となす。若し善男子善女人等、如是の福田僧を供養する者は所得の福徳は窮盡あることなし。前三の眞實僧寶を供養して所獲の功徳と正等無異なり。如是の四類の聖凡の僧寶は有情を利樂して恒に暫くも捨つることなし。是を名けて僧寶不思議の恩となす」。
爾時、五百長者、白佛言「世尊。我等今日佛の法音を聞き、三
寶の世間を利益することを得悟す。然も今、何の義を以ての故に佛法僧を説いて名けて寶となすを得るやを知らず。願くは佛、解説顯示して衆會及び未來
世において三寶を敬信する一切有情をして永く疑網を断じて信を壞せざらしめ、三寶不思議海に入らしめよ。」
爾時、佛、諸長者に告げて言く「善哉善哉。汝善男子。
能く如來甚深妙法を問ひて未來世において一切衆生を利益安樂ならしめんとす。譬ば世間第一の珍寶を具足の十義(以下に説く)を具足して國界を莊嚴し有情を饒益するが如く、佛法僧寶も亦復た如是なり。
一者堅牢。摩尼寶の人の能く破する無きがごとく、佛法僧寶も亦復た如是なり。外道天魔の能く破する能わざるが故に。
二者無垢。世間の勝寶は清淨光潔にして塵穢を雑へざるが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。悉く能く煩惱塵垢を遠離す。
三者與樂。天の徳瓶(大智度論に出る話。貧人が一心に天に祈りて富貴を求めるに天が宝の出る徳瓶を授けたという。)の能く安樂を與ふるが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。能く衆生に世出世の樂を與ふ。
四者難遇。吉祥寶の希有にして得難きが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。業障の有情は億劫にも遇ひ難し。五者能破。如意寶の能く貧窮を破するがごとく、佛法僧寶も亦復た如是なり。能く世間の諸貧苦を破する故に。
六者威徳。轉輪王所有の輪寶は能く諸怨を伏するが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。六神通を具して四魔を降伏す。
七者滿願。摩尼珠の隨心に所求の衆寶を能く雨ふらすが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。能く衆生所修の善願を満たす。
八者莊嚴。世の珍寶の王宮を莊嚴するが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。法王の菩提寶宮を莊嚴す。
九者最妙。天の妙寶の最も微妙なるが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。諸世間の最勝妙寶を超ゆ。
十者不變。譬ば眞金の火に入りて變ぜざるが如く佛法僧寶も亦復た如是なり。世間の八風は能く傾動すること能はざるところなり。佛法僧寶は無量の神通變化を具足して有情を利樂して暫も休息することなし。是の義を以ての故に諸佛法僧を名けて寶となす。
善男子。我汝等がために四種の世出世間有恩之處を略説せり。汝等當に知れ。菩薩行を修して如是の四種之恩に應報せんことを。
爾時、五百長者白佛言「世尊。如是の四恩は甚だ
難報なり。當に何行を修して而も是の恩に報ずべきや」。佛、諸長者に告げて言く「善男子。菩提を求める為に三種の十波羅蜜あり。一は十種の布施波羅蜜多。二は十種の親近波羅蜜多。三は十種の眞實波羅蜜多。若し善男子善女人ありて阿耨多羅三藐三菩提心を発して能く七寶を以て三千大千世界に満てて無量の貧窮の衆生に布施せんに如是の布施は但だ布施波羅蜜多と名くれども、眞實波羅蜜多とは名けず。若し善男子善女人ありて、大悲心を發し無上正等菩提を求めんがために自妻子を以て他人に施與して心に悋惜なく、身肉手足頭目髓腦乃至身命を來求に施せば、如是の布施は但だ名けて親近波羅蜜多となせども未だ眞實波羅蜜多と名けず。若し善男子善女人、無上大菩提心を發起し無所得に住し、諸衆生を勸めて同じ此の心を発し眞實法を以て一四句偈を一衆生に施し、向無上正等菩提に向かはしめば是を名て眞實波羅蜜多となす。
前の二布施は未だ名て報恩となさず。若し善男子善女人。能く如是の第三眞實波羅蜜多を修せば乃ち名けて眞實に能く四恩を報ずとなす。所以者何。前の二布施は所得の心有りて、第三の施は無所得の心なればなり。眞實法を以て一有情に施して無上大菩提心を発せしむ、是の人は當に菩提を得證する時に廣く衆生を度し窮盡あることなく、三寶の種をついで斷絶せしめず。是の因縁を以て名けて報恩となす。
爾時、五百長者は佛より未だかって聞かざる所の報恩
の法を聞き、心に踊躍を懷き未曾有を得て無上
菩提に趣おもむき、忍辱三昧を得て不思議智に入り永く不退轉を得る。
爾時、會中の八萬四千衆生は菩提心を發して堅固
信及び此三昧を得る。海會の大衆は悉く金剛忍辱三昧を得て無生忍及び柔順忍を悟り、或は初地を証して不起忍(無生法忍)を得る。無量の衆生は菩提心を発して不退位(菩薩52位のうちの十住から、十行にあたる段階)に住す。
爾時、佛、五百長者に告げたまはく「未來世中の一切衆生、若し此の心地觀報四恩品を聞くことを得て受持・讀習・解説・書寫し廣く流布せしめば如是の人等の福智は増長し、諸天衞護し、現身無疾・壽命延長なり。若し命終時には彌勒内宮に即得往生し白毫相をみて生死を超越し、龍華三會に當に解脱を得、十方淨土に隨意往生して見佛聞法し正定聚に入り、阿耨多羅三藐三菩提如來智慧を速成す。
大乘本生心地觀經卷第二終わり
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