今日弘仁四年十月二十五日は大師が「藤中納言大使のための願文」を書かれた日です。
この日、藤原葛野麻呂が無事渡唐の御礼に『金剛般若経』187巻の書写をしたので大師がその供養をされた際願文を執筆されています。
「某聞く智慧の源極を強いて仏陀と名け、軌持の妙句を仮りて達磨(法のこと)といふ。智よく円なるゆえに、なさざるところなく、法よく明らかなる故に自他兼ね済う。五眼常に鑑みて溺子を津渉し、六通自在にして樊籠(鳥かご)を抜きすくう。桓因(帝釈天)このゆえに憑念し、摩醯(大自在天)これに帰して接足す。不宰の功、なんぞあえて比喩せん(孔子が言葉の上だけで万物を長養して宰せずこれが玄徳であるというのとは比較できない)。弟子、去んじ延暦二十三年に天命を大唐にふくんで遠く鯨波を渉る。風波天に沃いで人力何の計かあらん。自ら思く、冥護(神仏の護り)によらずんばいずくんぞ皇華んも節を写し奉らんと。鐘谷感応して使乎の羨(遣唐大使のねがい)を果たすことを得たり。窹寐に思をつけて(寝ても覚めてもこの願いが気になって)食するに味を甘んぜず。しかりといえども公私の擾擾として(いりみだれて)遅延し、跼蹐(きょくせき・のびる)す。謹んで弘仁四年十月二十五日を以て写し奉て供養す。竝に巻毎を一遍転諷す。伏して願わくはこの妙業を以て彼の神威を崇めん。金剛の恵日は愛河を銷し竭くし、実相の智杵は邪山を摧砕せん。自他平等にして妄執を断割し、怨親斉しく沐して禍を転じて福とせん。三有六塗(三界六道)は皆悉く四恩なり。蚑行蝡動(はう・うごめく虫)してなんぞ仏性なからん。遍く平等の法雨を灑いで早く妙果の根果を塾せしめん。」
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