福聚講

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地蔵菩薩三国霊験記 10/14巻の10/10

2024-10-17 | 先祖供養

地蔵菩薩三国霊験記 10/14巻の10/10

十、下女火印を免る事

奥州秋田の郡に王大夫の惟秀と云ふ俗あり。家も冨みて身も豊なり。されども慳貪無慚の至にてありける。家属の中にをとめごといふ下女十八歳になりけるが下劣に賤しき生れ付なりしが心賢く、三宝を貴みける。或時農夫の食をひろぶたにならべて彼の下女にもたせて耕田につかはしける折、雨ふりて道もあゆみみぐるしきにこそ道の傍なる一宇の古堂に立寄り、くるしさを休めて居たりけるが、堂の中を見奉れば通身ばかりの地蔵立玉ひて、何の日か供御し奉るともなく、自ら古き花がらに枯れたる草木の枝をさしまじへたるばかりなり。下女つくつ゛くと見奉り、佛も人も心は同じ。人毎に佛供とて飯をそなへ奉るに久しくきこしめしたまはず。いたはしさよと、我にあたへし飯を常器ながら御机の上にさしをきて、付し拝み上るをきこしめせと申して取り下げ耕田に行かんとしけるが、あたりを見れば小佛のあまたならび玉へり。これもさこそ労(つかれ)玉ふらんと、人なみの飯の上少しずつ取りて面々に進めて耕田に至りけるに、遅く来たりて農夫どもあやしみ腹立し、此の飯の上の疵付けたるは道にて分とりたるにこそと口々に罵りけるを、主人聞きていかりをなし、にくき女めがしわざかな、後の戒めにもなるべし、それ縛れてぞ下知しければ、かしこまると田夫どもきびしく此れを搦め付け馬屋の柱にくくり付け、猶も腹をすへかねて、大なる矢の根のかりまたにて焼金を女の面に指付けて、向後懲りよ懲りよと指當てけるほどに目も鼻も髪の毛もことごとく焼け落ちけり。或人、大夫が家に来て語りけるは、されば世の中に不思議なる事あり。昨日の暮れほどに地頭殿、外より皈玉ひける道のほとりに、あやしき僧、若き女房を引き連れて立やすらひ玉ひけるを見付けて、いかなる子細やらんと尋ね玉へば、抑々此の女房は王大夫が本に住みけるが大夫が心にそむき放ちすてられし事のいたはしさに何方にも有り付けんと思煩ひ引き連れてこそ、と玉ふ。地頭、女を見玉ひて大に悦び我にえさせ玉へと乞取りて北の方に召したり。此の事尋ね申さんために来たりける。道の辻堂に貴賤の人々馳せ集まりて市をなす。何事やらんと思ひつつ立よりて見ければ、人長ばかりの地蔵にてましますを、御ぐしをやきこがれて御面相には大なるかりまたの焼金をあてたり。何人の仕業やらん未来の報もをそろしやと見る人涙をながしけり。大夫聞てをどろき、其の女に疵はなきかと問へば、北の方に成る人に何の疵かあらん。又地蔵をたつ゛ぬれば近き所なり、行きて見玉ひて末代の語りつたへにし玉へと云ふ。大夫が心さわぎあやしかりけるほどにいそぎ堂へ参て見奉れば、あさましきかな女にかはりて佛の受けさせ玉ふと思へば身の毛もよだちをそろしく後悔すれども甲斐もなく、未来の罪もはかりがたく、眼前のそしりまぬかれずしてうらめしかりければ、責めて罪の懺悔をし過ちを改むるにそなへんとて、其の日に耕作する所の田二町ばかりありけるを彼の寺に寄附し侍る。且く地蔵を信じけるが欲心もとの如し。罪業いよいよ重ければ終に生きながら鬼にとられて行方知らずうせにけり。此事は千人見る事を同じくし、万民聞くを一にせり。此の一記に限らず他書にもしるし侍らん。これを見彼をきくとても唯地蔵尊の奇特の不思議の御利生莫大の利益無量なり。されば彼の女子丹誠を致しけるを習玉ひなば誰か后妃にそなはり玉はざらんや。其の王大夫が邪見の迹をつぎ玉はば何の人は阿鼻に堕し玉はざらんや。經に佛種は縁より起こると云ひ(妙法蓮華經方便品第二「佛種從縁起 是故説一乘」)、諸業は心より生ずと金口明かなり(大方廣佛華嚴經夜摩天宮菩薩説偈品第十六「五陰從業起 諸業因心起 心法猶如幻 衆生亦如是」)。さるから一茎の草花をも真実に志さば是則ち佛道の縁となるべし。仮令千両の金を擲打つとも心中に邪見を抱きなば何ぞ無間にをちざらんや。佛道には財宝をもたっとばず、唯信心を以て先とせり。済度をも捨てず只だ修行盛んならばついに正覚を成ずべし。されば一念の功徳をなさば永劫に佛種の縁となり、誓願きはまりなきは地蔵薩埵の御事なり。能くこれを念ずれば、しきりに霊験を施し、信受するやからは忽ち利生にあずかる。草木の心なき刻彫を加れば賞罰を顕し、瓦礫のあらき石も切磋によりて光を生ず。人も成佛することほどなし。徒に日を暮らし終に三途の巷に迷ひ玉はんことのあさましさよ。されば十輪経に云く、文殊普賢観音弥勒等の諸大菩薩に百千劫間心命を尽くして恭敬礼拝し奉らんよりも此の地蔵菩薩を一食の間も念じ奉らん功徳まされりと云々(大乘大集地藏十輪經序品第一「假使有人於其彌勒及妙吉祥并觀自在普賢之類而爲上首殑伽沙等諸大菩薩摩訶薩所。於百劫中至心歸依稱名念誦禮拜供養求諸所願。不如有人於一食頃至心歸依稱名念誦禮拜供養地藏菩薩求諸所願速得滿足。所以者何。地藏菩薩利益安樂一切有情。令諸有情所願滿足。如如意寶亦如伏藏。如是大士。爲欲成熟諸有情故。久修堅固大願大悲勇猛精進過諸菩薩。是故汝等應當供養」)。

此れまさに少功多多福の利益門、是也。まさしく闡提救世の悲願には火に入り、水に入りて其の苦に代玉ふべき者なり。

(地蔵菩薩三国霊験記巻十終)

 

 

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