凡そ顕教の中には諸尊の印をば一向に説かざるなり。陀羅尼をば唐には総持と翻ず。惣じて一切の義を摂持するの義。しかるに顕教の中にも大般若の理趣分、法華経の第八巻の陀羅尼品等には陀羅尼をとけり。彼らの陀羅尼は一部の所説の義を摂侍する。顕中の秘なり。顕教にはただ無上菩提の仏果に至る。諸々の菩薩の因位修行の道理のみを、説くがゆえに、一心意密の法という。彼の陀羅尼はこれなり。真言教のなかに大日如来のときたまへる陀羅尼は密中の秘にして天竺には曼荼羅といふ。意は諸々の陀羅尼には総じて三密の法の不離の衆多の甚深の義を含持して適当して翻ずべき語なきがゆえに金剛智三蔵、不空三蔵、善無為三蔵は翻ぜずして陀羅尼真言には梵語を置くなり。いまこの諸尊の陀羅尼をば大日如来のはなちたまふ光明の中にときたまふなれば、または明ともいふ。大日如来の説きたまへる陀羅尼の言語は真実にして虚妄なければまたは真言ともいふ。また呪ともいふことは世間に呪禁の法ありてよくその法験を発して疫病等の災難を除くこと、彼の世間の俗の呪法にあい似たれば呪といふなり。三密の法は第一実際にしていまこの陀羅尼丸をも凡夫と二乗と顕教の修行の菩薩とはしることあたはず。ゆえに密語といふ。この三密の法は真言宗にのみこれをつたへて他宗にはかってつたへざるの法なり。まことに大日如来は無始よりこのかた一切如来の身中に在して常恒にこの三密の法を説き給う。しかるに一切如来は無始より以来根本無明に覆い隠されて己が身中の大日如来を拝することあたはず。況や如義真実の説法なれば聴聞することをえざるなり。これによって一切の衆生は皆心内の密厳浄土の法界宮にあることをしらずして各々心外にじつに穢土の娑婆世界を変出し、遠く隔てt生死海に淪没す。大日如来はこの迷界の生死輪廻の衆生を哀愍し彼らを救わんがために一切衆生の生滅を受くるが如くに随順して中印度国の摩か陀国において受生しtまひ、麻耶夫人の左脇下より胎に入りて生有を受け胎にあること十月にして四月八日にご誕生、面して八十歳の齢を経て、王城を越え、出家苦行し、魔を伏し道を成じ、法を説き生を利する等の八相の化義を示し、二月一五日に入滅したまふ。・・・この釈迦の法と大日の法とを伝ふる根本の宗に八あり。一には倶舎宗、二には成実宗、・・三には律宗、四には法相宗、五には三論宗、六には天台宗、七には華厳宗、八には真言宗なり。このほかに禅宗と浄土宗と中華においてはじめてひろまる。
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