原人論・・その5
「・総体としての一生の業に強く引かれて(引業・・総体として最も中心となる業によって一生の果報を招引する業をいう。地獄餓鬼畜生人天の六趣のどこに生まれるかを決定させる強い力のある業)父母を縁とし母体に宿り身心を備えた人間として出生する。しかも人として生を受けた個人は一人ひとり個別の差異を与えられて個体を完成する(満業)すなわち貴賤、貧富、天寿と夭死、病気と健康、隆盛と衰退、苦と楽の多少などについて相違ができる。たとえば前世で人を敬愛する徳行のあった人はこの世で貴人として尊敬され、傲慢で業因を持った人は今の世で軽賤の苦を受ける。また仁愛の心情をもった人は長寿であり、殺生に及んだものは若死にし、布施行のあった人は裕福となり、もの惜しみする人は貧乏となる。それぞれの個別の果報(別報・・満業(個別の因業)によって導かれた個々別々の果報))の相違については詳細に記述できないほどである。一方現世で人として生まれ同じ行動をするものにあっても差異がでてくる。たとえば今世で悪行がなくても自分に災禍が及び、善行がなくても自然に福徳がつき、仁愛の行為に反しても長寿を保ち、殺生をしないものでも若死にをするなどの場合である。これらのケースはみな前世での個々の業因とその果報との関係において今の世に引き継がれて定まっているのでこの世での行動がいかにあれ、過去世よりその差異が自然に形成された結果である。
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