性霊集第八「和尚皇帝を祈り奉らんが御為に大般若経を転読する願文」
「過をなすものは暗く、福をなすものは明なり。
明暗偕ならず、一つは強く一つは弱し。覚智強にして万徳円なり。
愚迷弱にして千殃侵す(迷って明がよわいと多くの災いがふってくる)。
強弱他にあらず、我が心よくす(強弱は己が心による)。能く白浄(信心)をなさばなんぞ経を読むことをせむ。この義を知らずば自他ともに労す。
能くこの趣を覚はわが師の種智なるものなり(仏の全知である)。
伏して惟んみれば我皇帝陛下、定慧体をかまへ(定と慧により体ができている)、智悲心に薫ず(悟りの智慧と慈悲心が心に沁みついている)。
足を五濁に濡し(劫、煩悩、衆生、見、命の濁りにそまり)、手を四生に授け、三界の耶(ちち)、万報の嬢(はは)なり。
尭の子不肖にして釈児狂狼なり(尭の子旦朱は愚物であり、お釈迦様の子、善星は悪友にまじわった)。
元元罪深うして旱疫やまひをなす(衆生は罪深いときは旱や病気がおこる)。
この険炭を愍んで尊を屈して仏に接す(険難の塗炭の苦しみを憐れんで仏の来臨をねがう)。
心を洗うて香とし、體を恭んで花とす(清浄の心で香をたき、うやうやしく花をささげる)。
百僧剋念して(思いを凝らして)大般若経を転読し、三解脱門(空、無想、無願の禅定)を観念す。
仰ぎ願わくは空空の一字わが民の業を蕩かし(一切界空の教えにより疫病・旱魃も空になることを念じ)、智智の二理吾君の福を茂くせむ。(人無我、法無我の理法、人も物も因縁により一時的に存在しているのにすぎないとさとり)。
石舞を労せずして甘澤汎溢し、(風雨の前兆のいわつばめが飛ばなくてもよい水田は水があふれ)柳枝を用いずして毒気殄滅せむ(灌頂経に比丘ののこした泉の柳の枝が毒気を消し人々の病を治したというがこの柳枝を用いずして毒気を消してしまう)。
上無為にして尊く、下無事にして安からむ。
五類(上界、虚空、地居、遊虚空、地下も五種の天)八道の神(東海、東山、北陸、山陰、山陽、南海、西海に五畿の一道をくわえた八道の神)、同じく法水に沐して共に覚道にのぼらむ。」
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