福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

四国八十八所の霊験・・・その62

2018-11-30 | 四国八十八所の霊験

66番雲辺寺から67番大興寺への途中では大体同じ遍路宿に泊まります。
巡打のときは66番からこの遍路宿までは迷いようがないほど順調にたどり着きます。17年には5人の中年へんろが夕食で一緒になりました。

中の一人が「納経帖はあまり何回も朱印を押すと分からなくなるのでその都度新しいものにしてはどうかとおもっている」というと宿のまだ若い主人が「知り合いの人で納経帖が真っ赤になるまで回った人が間違って袋とじのページを切り離してしまったそうです。そうすると朱印で真っ赤になったページの裏にご本尊の梵字が浮き出ていたそうですよ。われわれも昔から納経帖は真っ赤になると神様がでてくると聞かされていたものです。このことだったんですね。」といいます。いい話です。


ここのご夫婦は二人で歩き遍路を行じてからこの民宿をはじめたということです。道理で遍路心を知り尽くした至れり尽くせりのサービスな訳です。

翌日は小雨でした。昨夜一緒だった奈良からきた白髪のお遍路さんと歩きました。私が「お遍路さんは大体ご先祖が回らせているケースが多いのですよ」というとこの人は「母がお大師様のお蔭を受けてお四国をお礼に回りたいといっていたのに其の機会がないまま亡くなったのでそれを思い出して回ることにしたのです。」といいます。

そういえばこの年の1年前のちょうど今日、この日5月1日も薬王寺のあたりを20歳の倶梨伽羅紋々のヤクザ青年と一緒にあるいていておなじことを言ったのを思い出しました。この青年は「丁度今日5月1日が母の命日になるので」といいました。ふしぎに同じ日に同じことをお遍路さんに言って同じ答えが返ってきました。

(逆うちの時は大興寺からここまでは道が全く分かりません。此の宿の前を通る県道240号線にでるのが一苦労でした。手当たり次第に民家のインターホンを押してききますがたまたま在宅だった人も240号線など知らないといいます。やっと畑仕事の男性が教えてくれて方向がつかめました。遍路地図で見ると簡単な道ですが意外と難しいものです。昔の人の苦労がしのばれます。遍路宿は大興寺からすぐと思って油断していたのですがいざ歩くと6キロくらいはある感じでした。道端のお地蔵さまに新鮮な花が上がっているのを拝みつつ、坂を上っていきやっと遍路宿にたどり着きます。)
この遍路宿は10数年前できたばかりから泊まっていますが昔よりやはりすこし古くなってきた感じはありますが遍路宿にしては洒落た建物です。数年前は三時ころ着いたことがあり、まだ他の遍路さん方はついていませんでした。洗濯や風呂をさっそく済ませて、部屋の中の遍路ノートを見ました。この部屋に泊まったお遍路さんがメモを残しています。
少し紹介します。
「2009・9・5、阪神淡路地震被災二日後に結婚し新婚旅行代わりに遍路に来たことがある。その後、子供ができ下の子が小学校に上がったので今回逆打遍路に来た。子供が「あっ、カメさんがいる」とか「毛虫がいた」とかいって立ち止まるのでのんびりと遍路をやっています。」
「2010・1、新婚旅行に遍路に来た。絆が深まった。周りの人が幸せでありますように、28歳、27歳」
「2010・4、歩き遍路は初めて。歩き始めて37日目。どうしてこんなに苦労をして歩かなければならないのか、自問してしまうが、歩き始めて分かったことは、優しい四国の皆さん・大きな心・大きな自然、感謝感謝の気持ちです」
「2011・3・10、昨年41年間務めた会社を退職、実家の父母が何回か八十八か所を回っていたので退職を機に実践した。」
「2011・11、七十六歳、十五回目の遍路」
「2011・12・28、いろいろあった一年だった。つらいことも悲しいことも、このお遍路で吹っ飛んだ気がする。新しい気持ちで新年を迎えられそうな気持がする。」
「2012・1・8、初めての遍路で逆打をしています。結願して大師にお会いしてきます。」
「2012・4、八十二歳の現役助産婦です。」
「2012・5・8、福島の原発事故被災者。原発から三キロで帰宅できない。気持ちの整理と全世界からの支援への感謝を込めて遍路している。」
「2013、京都から自転車できて回っている。七〇歳」
「2014・4、夫を亡くしてからは一人で車を遠くまで走らせることが多くなった。札所を一人、車で回っています。苦しむことなく旅立った夫へのお礼の旅です。」
「2014・4・19、痛風で歩けなかったが、三角寺から雲辺寺までの長い道のりを歩いても痛くなかった。不思議です。結願まで一歩一歩あるき続けます。『百薬にまさる遍路に出でにける』と地蔵寺の石碑に彫ってありました。六五歳」
「2015・1・31、近しい人の奥様が突然死んだ。人生においては出会いは別れを運命つ゛けるものだ。わたしもいつの日か自分自身に別れを告げる日が来る。その日がいつになるかはわからないが、今を精一杯生きることだ。2016年の逆打は大変ご利益のある年と聞く。大師や死者にも会えるという。私は母に会いたい。来年は逆打で来る予定です。」
「2015・4・18、東日本大震災では全国の皆さんから多大のご支援を頂いた。感謝を込めて、物故者諸精霊供養のため回っている。自治会では三分の二にあたる70戸の家屋が流出、16名が死亡した。気仙沼市」
民宿の遍路ノートの続きです。
「2014・4、夫を亡くしてからは一人で車を遠くまで走らせることが多くなった。札所を一人、車で回っています。苦しむことなく旅立った夫へのお礼の旅です。」
「2014・4・19、痛風で歩けなかったが、三角寺から雲辺寺までの長い道のりを歩いても痛くなかった。不思議です。結願まで一歩一歩あるき続けます。『百薬にまさる遍路に出でにける』と地蔵時の石碑に彫ってありました。六五歳」
「2015・1・31、近しい人の奥様が突然死んだ。人生においては出会いは別れを運命つ゛けるものだ。わたしもいつの日か自分自身に別れを告げる日が来る。その日がいつになるかはわからないが、今を精一杯生きることだ。2016年の逆打は大変ご利益のある年と聞く。大師や死者にも会えるという。私は母に会いたい。来年は逆打で来る予定です。」
「2015・4・18、東日本大震災では全国の皆さんから多大のご支援を頂いた。感謝を込めて、物故者諸精霊供養のため回っている。自治会では三分の二にあたる70戸の家屋が流出、16名が死亡した。気仙沼市」
こうしてみると、高齢者の遍路が多い事、東日本の被災者が意外と回っておられること、新婚旅行遍路に来ているという人もいる事など10年前に焼山寺の遍路宿で見た遍路ノートと比べると時間の変化を感じます。10年前は若者がもっと多かった気がしますがその分高齢者にとって代わられているのでしょうか。メモの深刻さも10年前より少ない気がしました。10年前には「自殺を思いとどまった」「孤独だ」「これからの進路に悩む」等の深刻なものが多かったのですが今回見た中には東日本被災者以外にはあまり深刻なメモはありませんでした。時代の雰囲気でしょうか。
夕食は5人の遍路が一緒でした。ひとりは70歳くらいの高松から来たという男性。この人は毎年数回遍路しているといいます。東京から来たという婦人警官もいました。あとは老夫婦。旦那さんは78歳、奥さんは10歳は若いとお見受けしましたがこの夫婦も年数回東京から夜行バスで来て歩きで区切り打ちをしているということです。78歳の男性は肺癌で肺を大部分切除して小学生並みの肺活量といいます。それでもあの遍路ころがしと言われる雲辺寺の道なき道を登って降りてきたのです。奥さんは「このひととならどこで死んでもいいのです」といいました。
数年前の逆うちの時はここから66番雲辺寺を目指しましたがその時のことも記録しておきます。
このときは前夜に遍路宿のご主人にこのあたりは猪が出ますから明るくなってから歩いた方ががいいですよと言われ心配していましたが、出かける5時にはもうすっかり明るくなっていました。8年前この雲辺寺への逆打ちで言葉にできない有難いことが起こったので沐浴して緊張しながら歩き出しました。前回は難なく歩けた記憶があるのですが、今回はやはりこの道は遍路ころがしと言われるだけあると実感させられました。民宿から5キロ弱の山道ですが雨で削り取られた道なき道を喘ぎながら登ります。雲辺寺の山道は88所で一番きびしい遍路道です。今回も何十回喘ぎながら休んだか分かりません。
そして道には昨日通った歩き遍路の滑った跡が至る所についています。
「落ち葉踏む あと生々し遍路道 この山道を行きし人あり」とでもいうところでしょうか。
そうこうするうち朝日が東の山から登ってきて木々のあいだから光が差し込みます。8年前の逆打のときも同じ光景を見て、「やはりこの世にはお金には代えがたいものがあるのだ」と恍惚とした覚えがあります。
この遍路道で八年前の逆打ちではここにはとても書くにかけないありがたく勿体無い出来事が起こりました。平成20年5月4日でした。生涯、いや生まれ変わっても忘れることはできない有難いことでした。ここにはとてもかけません。遍路の本懐を遂げたといっても過言ではありません。今年はあまり疲れたのでしょう、無数のお大師様が向こうから次々歩いてこられているという幻想に浸りました。
やっとの思いで寺の裏に着くと等身大の五百羅漢様がずらりと並んで朝日に光っておられます。本当に五百体あるかと思われる位並んでいます。寄進された方の菩提心に頭が下がります。


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