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今日天長元年10月22日は大師が「笠の大夫、先妣の奉為に大曼荼羅を造り奉る願文」を書かれた日です。
「弟子従五位上行左衛門の権の佐笠の朝臣仲守、金剛界蓮華部の四種曼荼羅に帰命し奉る。李桑が言籍はなお二辺の泥に滞り(老子は無の一辺に、孔子は有の一辺に滞っている)、勝数が典文はなお三有の水に溺る(勝論と数論はなお三界の迷いの世界である)。小家は小感し、大演は大時なり(小乗は自利のみで小涅槃のみ、大乗は自利利他で菩提涅槃の妙果を証するがそれは三大阿僧祇劫を要する)。またあるいは一湿(法華三昧)・俱時(華厳)の金華、美が美、深が深なりといえども風水の淵に涵泳し(華厳の教えは本覚と無明の融合した境地にとどまり)、自他の窟に優遊す(自は本覚、他は無明、天台も本覚と無明の差別の世界にある)。誰か若かん、弌阿の本初性真の愛を吸うて始めなく(真言の阿字は本性の大悲により大愛(大貪・大瞋・大痴)を吸収して無終無始であり)、金蓮の性、我本覚の日を孕んで終りなきには(蓮華上の黄金の本性大我たる智法身は本覚の智を具足して無始無終である)。
機因縁を絶ち、言、筌(魚をとる具)蹄(獣をとる具)を離れたり(大日如来の説法は顕教で使う日常言語を離れている)。自、自ら自を為し(自とは本覚の体性。両部理智不二の法身は本覚の性智を本来法爾として証得している)。阿独り阿をなす(阿字本不生の理もまた本来法爾として証得している)。烏に乗る五智(「烏」は日輪で胎蔵界の理法身、これに五智具足の金剛界智法身が乗り)、兔に騎る四輪は(「兔」は月輪で金剛界智法身、「四輪」は胎蔵界の理法身をさし、金剛界の智法身に胎蔵界の理法身が乗っている)金体(金剛界智法身)を曼荼の海会に証し、蓮躬(れんぐう)を瑜祇の心殿に得たり(蓮躬(れんぐう、胎蔵界理法身を瑜伽行者の心中に得た)。この故に五居足疲れて秣(まぐさか)い(相・夢・妄執・無始・如義の五種言説がつかれて一休みし)、十慮心滅して休遊す(1眼識心、2耳識心、3鼻識心、4舌識心、5身識心、6意識心、7未那識心、8阿梨耶識心、9多一識心、10一一識心も及ばずして休み止まる)。允に父とし允に母として三覚を牢籠し(自覚・覚他・覚行円満の三覚を包みこめる)、よく摂し、よく生じて五臓を出内す(経・律・論・般若・陀羅尼の五臓を広く説き出す)。弌声の義、劫を歴ても尽くし難し(阿字等の一字に含まれた義は劫をへても説き尽くせない)。四曼の徳誰かよくこれを称謂せん。
伏して惟んみれば先妣従五位下王氏は柔軟そなわり、婦義円なり。荷露(蓮の葉の露)心を瑩き、竹霜念いを凝らす。夕月牕まどに坐し、暁鐘聴を徹するに至る毎に、金仙を香煙に慕い、玉句を仮寝に耽る(仮寝の床でも経を念ずる)。誓っていわく、聞道きくならく、曼荼の諸仏は佛のなかの尊、真言の秘経は経のなかの経なり。願わくは我れ身を粉にして圖し奉り、骨を折って書写し、もって自他を益し、もって恩海に酬いんと。豈に図りきや、事と長いと違して慈水奄(にわか)に逝かんとは。弟子等薬を嘗むるに感なし、毒蓼して蒼に訴う(嘆き悲しんで天に訴えた)。日薄(せまり)、星廻って、期辰すみやかに至れり(日がおしつまり一周忌がめぐってきた)。謹んで天長元年孟冬二十二日をもって先妣の本願を問い源が為に大日の微細会の曼荼羅一鋪九幅七十三尊を図し奉り、ならびに大日経等の若干の部巻を写し奉る。兼ねて法侶を延いて大日の法智印(大日経)を講演す、四銖胖蠁(ししゅきっきょう、わずかな金で求めた燈明でも不滅の宝灯としてかがやく)、五茎照灼す(わずか五茎の蓮華を供養しても輝く)、一鉢余りあり(一鉢でも十方の仏に供養して余りある)、三尊尚饗したまえ。法界彩を発して(新造の曼荼羅は彩色が美しく)海会の影森羅たり。丹青暉を交えて塵刹の像駢填たり(無数の仏が立ち並んでいる)。金文玉字字字に百千の契経を呑み、空点有畫点点に万億の義理を含めり。積劫の障雲は一瞻の眼に蕩け、累生の業雲は一誦の口に褰げん。伏して願わくはこの妙業によって先慈をたすけたてまつらん。月鏡盈盈として忽ちに金剛の日殿に逍遥し(亡母の心月を円満ならしめ金剛界の悟りに証入せしめ)、日輪赫赫として速やかに蓮台の日宮に放昿(気ままに遊ばせる)せん(慈母の慧日をして輝かし胎蔵界の悟りに証入せしめる)。鱗衣蹄履(鱗あるもの、蹄あるもの)、角矛牙剣(矛のような角あるもの、剣のような牙あるもの)、排上潜下(飛ぶものと潜るもの)、怨親疎昵、同じく鑁乳の珍味に飽いて(金剛界の鑁字の悟りに達して)、斉しく阿字の宝閣に登らん。
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