問、妄想とは
答、「莫妄想」というのみ。
夢中問答・・
答浄土・穢土の隔てあり、迷悟凡聖同じからずと思へるは妄想なり。聖凡の隔てもなく浄穢の別もなし、と思へるもまた妄想なり。仏法に大小、権実、顕密、禪教の差別ありと思へるも妄想なり。仏法は一味平等にしてすべて勝劣なしと思へるも妄想なり。行住坐臥・見聞覚知、みなこれ仏法也と思へるも妄想なり。仏法は一味平等にしてすべて勝劣なしと思へるも妄想なり。行住坐臥、見聞覚知、皆これ仏法なりと思へるも妄想なり。一切の所作所為を離れて別に仏法ありと思ふも妄想なり。万法は皆是無常なりと見るは小乗の妄想なり。万法のうえにおいて常見・断見を起こすは外道の妄想なり。或いは如幻即空と知り、或いは中道実相と覚は菩薩の妄想なり。教外別伝の宗旨あることを知らずして教門を執着するは教者の妄想なり。教外別伝とて教門よりも勝れたる法門ありと思へるは禪者の妄想なり。かやうの法門を信じてさては一切皆これ妄想なりと思はば亦これ妄想なり。昔、無業国師、一生の間、学者の問を答えるにただ莫妄想の一句を以てす。もしこの一句を透得せば本有の智慧徳相すなわち現前すべし。