修験宗旨書・・・23
結袈裟秘訣第三通(結袈裟とは、山伏がつける袈裟で細長い布地3筋を緒で結んで連ね、所々に菊綴をつけた輪袈裟)
夫れ山伏とは三身本具の妙体・十界一如の形相なり、故に九界迷妄の凡体を動かず、當相即道の法体を示す。秘記にいわく、結袈裟とは三衣(僧伽梨そうぎやり(大衣・九条衣)・鬱多羅僧うつたらそう(上衣・七条衣)・安陀会あんだえ(中衣・五条衣))の中、法身の布、九条の袈裟なり。九合・九結・九界なり。九界の衆生を九条に結び行者之を著る。行者は仏界、九条は九界なり。故に名けて十界互具の袈裟という。或は不動の袈裟という。不動明王とは十界本有の総体、凡聖不二の体性なり。十界一実の故に生佛の隔てなし。迷悟一体の故に智と不智とを泯ず。誠に是れ十界自爾當位即妙の表示なり。裏書にいわく、結袈裟とは胎蔵八葉の中台に梵字の阿字を加え、九識本分の袈裟と為す(九識とは、眼・耳・鼻・舌・身・意・末那・阿頼耶、菴摩羅識)。即是自性心蓮の胎蔵を顕し、己心本覚の万徳を示す。先ずその形を謂に、山の字を結ぶ三鈷頭は三身独鈷、形は即一なり。五色即一色、三身則一の深義、これをおもうべし。重の間四尺二寸は住・行・向・地・等妙二覚の四十二位の階級を表し(四十二位は、十住・十行・十廻向・十地・等覚・妙覚)、独鈷形三寸は三界唯一心の義を顕す。白色の六房は六波羅蜜の聖位能家なり。白色は随縁真如の義、一僧祇修行者この袈裟を著す(入峯3で一僧祇、6で二僧祇、9で三僧祇の階級)。黒色六房六道は凡位所化なり。黒色は普遍真如の義、度衆・新客これを著す(初めて参加した者は「新客」、二回目から「度衆」。七回以上は「先達」という)。古徳いわく、不変真如凝然常住、隨縁真如縁起無住。先達とは隨縁利物の位なるが故に白色の房を用う、たとえば白色の諸色に変がごとし。度衆・新客は自証独満の位なるが故に黒色の房を用う、たとえば黒色の余色に変ぜざるが如し。表書きにいわく、威儀二尺五寸は、二十五有・五色階道(曼荼羅の周囲を囲む五色)往変の義を表す。白房の時は逆に威儀を佼まじえ下化衆生、黒房の時は順に威儀を佼まじえ上求菩提なり。二十五有とは頌にいわく、四列四悪趣六欲幷梵天四禅四空処無想五那含なり
(二十五有とは三界を二十五種に分けたもの。 欲界 に四悪趣(地獄・餓鬼・畜生・修羅)、四洲(北鬱単越・南閻浮提・西瞿耶尼・東弗婆提)六欲天(四王天・忉利天・夜摩天・兜率天・楽変化天・他化自在天)の十四有。色界に 四禅天(初禅天・第二禅天・第三禅天・第四禅天)と無想天・浄居天・大梵天の七有。 無色界の 四空(空無辺処天・識無辺処天・無所有処天・悲想非非想天)の四有、計25) 。私にいわく、袈裟とは梵語、ここには六含と訳す、所謂一に不魔、二に浄戒、三に正威儀、四に破悪、五に浄命、六に尊貴なり。この六徳を具す故に六含という。秘記にいわく、結袈裟威儀帰入阿字門、解袈裟威儀速断輪廻道なり。右一一の表示皆是行者の一身に本より従い、十界一如三身万徳の妙理を具足することを顕す。凡そ修験の理観とは、事相の表門に似たりと雖も即ち法界の表示、極佛の境界なり。このほか、諸師の異解によって体内の衣奈幷に福田等の沙汰あると雖も、修験の所要に非ず。故に是を略す。今智光行者の伝に任せ大綱これに註す。未修行の輩においてあえて之を示すべからず。
結袈裟秘訣第三通(結袈裟とは、山伏がつける袈裟で細長い布地3筋を緒で結んで連ね、所々に菊綴をつけた輪袈裟)
夫れ山伏とは三身本具の妙体・十界一如の形相なり、故に九界迷妄の凡体を動かず、當相即道の法体を示す。秘記にいわく、結袈裟とは三衣(僧伽梨そうぎやり(大衣・九条衣)・鬱多羅僧うつたらそう(上衣・七条衣)・安陀会あんだえ(中衣・五条衣))の中、法身の布、九条の袈裟なり。九合・九結・九界なり。九界の衆生を九条に結び行者之を著る。行者は仏界、九条は九界なり。故に名けて十界互具の袈裟という。或は不動の袈裟という。不動明王とは十界本有の総体、凡聖不二の体性なり。十界一実の故に生佛の隔てなし。迷悟一体の故に智と不智とを泯ず。誠に是れ十界自爾當位即妙の表示なり。裏書にいわく、結袈裟とは胎蔵八葉の中台に梵字の阿字を加え、九識本分の袈裟と為す(九識とは、眼・耳・鼻・舌・身・意・末那・阿頼耶、菴摩羅識)。即是自性心蓮の胎蔵を顕し、己心本覚の万徳を示す。先ずその形を謂に、山の字を結ぶ三鈷頭は三身独鈷、形は即一なり。五色即一色、三身則一の深義、これをおもうべし。重の間四尺二寸は住・行・向・地・等妙二覚の四十二位の階級を表し(四十二位は、十住・十行・十廻向・十地・等覚・妙覚)、独鈷形三寸は三界唯一心の義を顕す。白色の六房は六波羅蜜の聖位能家なり。白色は随縁真如の義、一僧祇修行者この袈裟を著す(入峯3で一僧祇、6で二僧祇、9で三僧祇の階級)。黒色六房六道は凡位所化なり。黒色は普遍真如の義、度衆・新客これを著す(初めて参加した者は「新客」、二回目から「度衆」。七回以上は「先達」という)。古徳いわく、不変真如凝然常住、隨縁真如縁起無住。先達とは隨縁利物の位なるが故に白色の房を用う、たとえば白色の諸色に変がごとし。度衆・新客は自証独満の位なるが故に黒色の房を用う、たとえば黒色の余色に変ぜざるが如し。表書きにいわく、威儀二尺五寸は、二十五有・五色階道(曼荼羅の周囲を囲む五色)往変の義を表す。白房の時は逆に威儀を佼まじえ下化衆生、黒房の時は順に威儀を佼まじえ上求菩提なり。二十五有とは頌にいわく、四列四悪趣六欲幷梵天四禅四空処無想五那含なり
(二十五有とは三界を二十五種に分けたもの。 欲界 に四悪趣(地獄・餓鬼・畜生・修羅)、四洲(北鬱単越・南閻浮提・西瞿耶尼・東弗婆提)六欲天(四王天・忉利天・夜摩天・兜率天・楽変化天・他化自在天)の十四有。色界に 四禅天(初禅天・第二禅天・第三禅天・第四禅天)と無想天・浄居天・大梵天の七有。 無色界の 四空(空無辺処天・識無辺処天・無所有処天・悲想非非想天)の四有、計25) 。私にいわく、袈裟とは梵語、ここには六含と訳す、所謂一に不魔、二に浄戒、三に正威儀、四に破悪、五に浄命、六に尊貴なり。この六徳を具す故に六含という。秘記にいわく、結袈裟威儀帰入阿字門、解袈裟威儀速断輪廻道なり。右一一の表示皆是行者の一身に本より従い、十界一如三身万徳の妙理を具足することを顕す。凡そ修験の理観とは、事相の表門に似たりと雖も即ち法界の表示、極佛の境界なり。このほか、諸師の異解によって体内の衣奈幷に福田等の沙汰あると雖も、修験の所要に非ず。故に是を略す。今智光行者の伝に任せ大綱これに註す。未修行の輩においてあえて之を示すべからず。