ZAKZAKより転載
先月報道された沖縄県紙のアンケートによると、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設を容認する住民の割合が最も多かったのが、石垣島を中心とする八重山諸島だった。沖縄の主要マスコミは「八重山は米軍基地の被害がなく、尖閣諸島を抱え、保守化、右傾化が進んでいる」と懸念を示している。
私は、沖縄本島のあるマスコミ関係者から「政府と一緒になって、同じ沖縄人を抑圧しようとしている」と、“たしなめられた”ことがある。
沖縄を東京など本土から見ると「反米・反日」一色に見えるようだ。県紙は連日、反基地活動や「沖縄独立論」を大きく報道し、日米両政府に抗議する県民大会も繰り返される。しかし、それは主要マスコミによって「誤解されている沖縄」の姿だ。特に、本島から400キロ以上南に離れた石垣市では、だいぶ雰囲気が異なる。
安倍晋三政権が4月28日に開いた「主権回復の日」式典に対し、沖縄は「屈辱の日」だと反発したことが大きく報道された。石垣市議会でも「主権回復の日」に抗議する意見書が提案されたが、自民党の市議からはこんな意見が出た。
「尖閣諸島を奪われかねない非常時に、国民は一致団結するべきだ」
「すべての国民が基地被害の沖縄に思いをはせ、北方領土や竹島に対する認識を新たにするためにも、主権回復式典は必要だ」
自公路線の公明党が、この時に限って野党と同調したため、抗議の意見書はわずか2票差で可決された。そのため主要マスコミは、市民を代表する議員が、こうした発言をしたことは報道しない。
他国の脅威に敏感なのが、なぜ保守化なのか。沖縄人であると同時に日本人であることを誇りに思うことが、なぜ右傾化なのか。主要マスコミの攻撃に対し、八重山の多くの住民が当惑している。
八重山では2年前、尖閣諸島が日本固有の領土であることや、自衛隊の活動が高く評価されていることを詳述した育鵬社の中学校公民教科書が、沖縄県で初めて採択された。本土でさえ育鵬社版に対する反発が根強いのに、である。
石垣市には、琉球王国に反旗を翻して戦死した「オヤケアカハチ」という英雄の銅像がある。本島との「温度差」は、遠い過去から存在し続けているのだ。
八重山は自然豊かで人情が厚い、癒やしの島々だ。移民を受け入れ続け、多様な価値観に寛容な風土もある。「沖縄の危機」の突破口が国境の島々から見えてくるかもしれない。 =おわり
■仲新城誠(なかあらしろ・まこと) 1973年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、99年に石垣島を拠点にする地方紙「八重山日報社」に入社。2010年、同社編集長に就任。同県の大手メディアが、イデオロギー色の強い報道を続けるなか、現場主義の中立的な取材・報道を心がけている。著書に「国境の島の『反日』教科書キャンペーン」(産経新聞出版)など。