通路の音は、三回ついて一休憩だ。
“ 様子を見に行きたい気もするけど・・・。”
体は動かせなくも無い。
でも、ベッドから降りて、車椅子に乗って見に行くのは億劫だ。
「 まあ、ベッドで寝たまま様子を見るか・・・。
それにしても、こんな夜遅くに非常識だろ。
看護婦さんに怒られるぞォ・・・。」
音は、三回ついて休憩、三回ついて休憩、を繰り返す。
“ てんてんてん、てんてんてん、てんてんてん・・・・・。”
音は少し大きくなった。
「 少し、近付いて来たかな・・・。」
そのとき、山本爺の呟きが突然聞こえた。
「 来る・・・・。」
俺はその声に驚いた。
“ エッ、山本爺、起きていたのか!?”
俺は山本爺は熟睡しているものと思っていた。
俺は首を少し起こし、山本爺のベッドを見た。
布団がゴソゴソ動いている。
そして、山本爺の呟きは続く。
「 来る、来る、来る、・・・わっ!」
山本爺は、急に布団を頭から被った。
音は相変わらず、三回ついて休憩、三回ついて休憩、を繰り返しながらゆっくり近付いて来る。
“ てんてんてん、てんてんてん、てんてんてん・・・・。”
徐々に音は病室に接近して来た。
俺は首を少し右に振って通路の方を見る。
病室の扉は閉まっていた。
でも、扉の上半分に付いているスリガラスに、通路の弱い非常灯の明かりが透けて見える。
「 病室の前まで来たら、あそこに影が映る筈だ。」
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