日々の恐怖 4月3日 無菌室
病院の夜勤のときです。
夜中2時のラウンド、無菌室に続く扉の前で一生懸命に中を覗き込んでいる人がいた。
無菌室からもれる紫の蛍光灯に照らされた人影が何ともいえない雰囲気を醸し出してた。
一瞬ギョっとしたけど、自分に無理やりに、無菌室の前の個室の患者さんが寝ぼけてるだけ、と言い聞かせ近くまでいくけど、私の足音は聞こえているはずなのに、振り向かない。
でも、背格好からして3日前に亡くなったA君だと思った。
急に怖くなくなって、
「 A君?」
って声をかけたら振り向いて、びっくりしたような顔をして、
「 あのー、僕いつの間にこの部屋(無菌室)から出たんですか?」
って聞いてきた。
亡くなる直前は、自分が移植した後のことを何にも覚えてなくて容態悪化で無菌室から出たこともわかってなくて、生きてる時も、
「 ここはどこですか?」
とか言ってたから、
“ あーまだわかんないんだなー。”
と思って教えてあげた。
亡くなったことは言わなかったけど、質問されていろいろ答えてた。
急に、重症患者のSさんからのコールが鳴って、
「 あ、行ってあげてください。」
って言われて、その場を離れた。
コールのあったSさんの部屋に入るときにチラっと彼の方を見ると、寂しそうに立ってこっちを見ていた。
しばらく、Sさんにかかり切りになっている間に、気がつけばいなくなってた。
後日、その時コールのあったSさんは、一時危なかったんだけども、その時A君が廊下をフラフラしてる夢を見たって言ってて不思議でした。
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