日々の恐怖 4月18日 YMCA
仕事帰りの地下鉄での話です。
ピーク時間を過ぎてて、人もまばらで空いていた。
私は(ただなんとなくなのですが)いつも座席に座らずに立つことにしているので、その日もいつもと同じように立っていた。
途中、ある駅で、30過ぎくらいの男性が乗ってきた。
見るからに落ち着きがなくて挙動不審。
そして、その男性は、席も空いているし他に沢山スペースがあるのに、どういうわけか私の後ろに陣取った。
私は、動いて注意を引いたりしたら面倒なことになるし、あと4、5駅したら降りるので、少しだけ前に移動してそのままの位置にいることにした。
乗車後しばらくして、その男性はぶつぶつ何やら呟き始めた。
すぐ後ろなので嫌でも聞こえてくる。
「 もー、お父さん、だからだめなんですよ。」
「 そういうなよ、俺だって頑張ってるんだ。」
「 いっつも、そうじゃないですか。」
男性は、家庭でのやり取りなのか何なのか、そんな内容の会話を一人で再現していた。
そしてそれからしばらくして、その男性は突然、
「 ふーふーふー。」
と言いながら、縦ノリでリズムを取り始めた。
何度目かの、
「 ふーふーふー。」
の後、歌い始めた。
「 すばらしいー、わーい、えむ、しえーー♪」
このあとしばらくこの繰り返し。
そろそろいい加減にしてほしいな、と思い始めた時、変化が起こった。
突然大きな声で、
「 もお悩むこーとは、なーーいんんだああーー♪」
と歌ったかと思うと例の、
「 ふーふーふー。」
が続き、いつもより大きめの縦ノリ。
そして、
「 すばらしいー、わーい、えむ、しえーー。」
で締めた。
不謹慎だけど、
“ ちょっとは悩め!”
と思わずにはいられなかった。
歌を聞かされただけで無事に下車した。
絡まれたりしなくて良かった。
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