日々の恐怖 5月8日 紅茶(3)
あったかい。
湯気と共に良い香りが車内に立ち込めた。
猫舌なので、紅茶をちょびちょび舐めるように飲んでいると、携帯が鳴った。
画面を見ると、保険会社からだった。
Yは、
“ レスキューが無事着いたかどうかの確認だな。”
と思い、電話を取った。
『 あ、Yさん、○○社です。
ご状況いかがですか?』
「 あ、どうも~。」
『 実はですね、大変申し訳ないのですが、△△道が波浪警報のため現在通行止めになってしまっていて、Yさんがいらっしゃる地点まで、大きく迂回していかなければならないため、スタッフがそちらに着くまでに、最低あと4、50分は掛かってしまうと思われます。』
「 ・・・え、・・・・?」
『 もしもーし?』
「 ・・・・・・。」
『 もしもーし、Yさん、大丈夫ですか?』
「 あの・・・。」
『 はい。』
「 あの、スタッフの方、もう着いてます。」
『 え?』
「 10分まえくらいに・・・男の、若い人。
私、もう車両から引っ張り出して貰いました。」
『 え、本当ですか?』
「 ええ。
今、紅茶をいただいて・・・。」
『 紅茶?』
会話がなかなかかみ合わない。
保険会社の社員は、矢継ぎ早に質問をしてきた。
『 そのレスキューは何時頃来たか?
どんな車両で、どんな人相で、どんな服装で、何人来て、どんな対応をしたか?』
Yは答えながら、携帯を握る手に汗がにじんでいくのを感じた。
不安から、自分がだんだん早口になっているのが分かった。
保険会社の社員は、
『 Yさん落ち着いてください。』
と言った後、一呼吸置いてこう告げた。
『 ・・・あの、・・・それは、・・・本当に当社のスタッフでしょうか?』
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