日々の恐怖 5月11日 紅茶(4)
保険会社の社員の話では、Yの元に来た男は服装や車両の特徴も、自社スタッフとまったく異なるという。
通常、豪雨時の応援には、最低2人以上のスタッフを派遣することになっているし、暖かい紅茶のサービスなんていうのも行っていない。
Yはわけが分からなくなった。
保険会社の社員も同じくわけが分からないようで、
『 現地に向かっている筈のレスキュースタッフと連絡を取ってみて、現状を確認し次第、再度連絡します。』
と告げ、Yの返事も聞かず、電話は切られてしまった。
Yは暫く放心したが、自分の置かれている状況を整理すると背筋が凍った。
前方のYの車両の脇で、何か作業をしている風なレインコートの影。
“ あれは一体誰なのか?
保険会社のものではないとしたら、今自分が乗せられているこの軽トラは何なのか?
この紅茶は何のために飲まされたのか?
ここから逃げた方が良いのか?
助けをまった方が良いのか?”
Yは混乱する頭で考えた。
窓の外を見ると、一時期よりは雨は弱くなっていた。
もし、逃げ出せるとしたら今がチャンスなのかもしれない。
“ でも、どこへ・・・?”
しかも、足場は最悪だ。
考えが纏まらないまま、ふと前を見ると、男の姿が見えない。
“ あれっ・・・・?”
と思い、フロントガラスの結露をぬぐってもう一度よく見たが、やはりさっきまでいた筈の、男のレインコート姿が見えない。
“ どこへ行ったんだろう・・・・。”
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ