日々の恐怖 5月12日 紅茶(5)
Yは意を決して外に出てみることにした。
さっき男が貸してくれたレインコートを羽織ろうかと思ったけどやめた。
車から降りると、水嵩は膝下まで来ていた。
Yは恐る恐る軽トラの周りを一周した。
男に鉢会ったら間違いなく悲鳴を上げただろうが、会わなかった。
その時、携帯が鳴った。
保険会社からだった。
『 あ、Yさん大丈夫ですか?』
「 はい。」
『 あの、あと10分ほどで救助スタッフ到着するそうなので、もう少しの辛抱です。
大丈夫ですか?』
「 あんまり大丈夫じゃないです。」
『 あの、念のため警察にも通報を入れたので、それもそちらに向かっていますので・・・。』
「 私は、この場にいたほうが良いんですか?
それとも、逃げた方が良いんでしょうか?」
『 あの、実はですね・・・。』
「 はあ・・・・?」
『 Yさんが現在いらっしゃる近辺、事件がときどきあるそうなんですよ。』
「 え?」
『 その辺り、いつもなら夜中に巡回のパトカーなんかもいるらしいんですが、今夜は台風でそれもないので、十分に気をつけてくれ、とのことでした。』
「 ええっ・・・・・?」
そして、電話は不安だけを残して、
“ ガチャ!”
と切れた。
電話が切れて一人取り残されたYは、車内に戻る気にもなれなかった。
それで、念のため、もう一度軽トラの周りを一周してみることにした。
男の姿が忽然と見えなくなったことが、とにかく不安だった。
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