日々の恐怖 2月27日 幸福の妖精(2)
うまく言えないんだけど、馬鹿にしてるとかじゃなくて、普通に平然とした顔で、
「 大丈夫だよ~、君は大丈夫、大丈夫~。」
と言って頷いてた。
俺も何か怒りがすっと引いて、
“ よく考えたら、別にそんな入りたい所じゃなかったなァ・・・。”
って冷静になった。
おっさんの胸元掴んでしわしわになってたんで、
「 すんませんでした。」
と謝ったら、おっさんはまた普通の顔で、
「 大丈夫だよ~、君は大丈夫。」
と言って去って行った。
OBからは連絡なかったけど、本命じゃなかったのに流されそうになってしまった、その会社の熱意というか強引な口説き方が、遅まきながら怖くなったから、俺からも連絡しなかった。
それから2ヶ月後、ちょっとだけ条件を譲歩したら、元々の希望だった研究職の内定もらえた。
俺はおっさんに感謝した。
でも本当に驚いたのは、それから3年後だった。
昼休みに食堂で見たニュース。
俺とおっさんが追い出された会社が、謝罪会見やってた。
詳しくは書けんが、会社ぐるみで犯罪やって、社長以下、幹部はほとんど逮捕。
平社員もノルマの名の元に犯罪行為させられてて、かなりの人が客から訴えられたそうだ。
いっしょに飯食ってた同僚に、
「 もしかしたら自分は、ここではなくこの会社に入るかもしれなかった。
いや、おっさんが邪魔してくれなかったら、確実に入ったと思う。」
と話したら、
「 もしかして、そのおっさんって、幸福の妖精じゃね~の?」
と言われた。
俺は、
“ 妖精ならTinker Bellmみたいな感じだろ・・・。
しかも、小太りで禿げてる妖精かァ・・・・?”
と思った。
いや、まあ、でも本当に感謝してる。
いつか会ったら妖精に礼を言いたいけど、あれ以来会ってない。
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