統計数理研究所の山本誉士特任研究員と名古屋大学大学院環境学研究科の依田憲教授を中心とする研究グループが、動物に小型データロガー(記録計)を装着して行動を調べるバイオロギング手法を用いて、南米アルゼンチンに生息するマゼランペンギンのメスが、オスより多くストランディング(衰弱や怪我による漂着)する理由を明らかにした。この研究成果は、平成31年1月8日付(日本時間1時)米国科学雑誌 Current Biologyオンライン版に掲載された。
マゼランペンギンは冬になると繁殖地から1000km以上も離れたウルグアイやブラジル南部の海域で、毎年、数千羽がストランディングすることが様々なメディアで取り上げられてきた。
ストランディング個体はオスよりもメスの方が多いことが過去の研究から知られていたが、その理由は謎のままであった。本研究で、マゼランペンギンのメスは、オスよりも繁殖地から遠い、ウルグアイからブラジル南部にかけての海域まで移動して越冬していることが明らかになった。メスが主に越冬している海域は、船舶の往来や油田開発、漁業などの人間活動が盛んな海域と重複しているため、オスに比べてメスの方が飢餓や怪我などによってストランディングする可能性が高いのだろうと考えられる。
マゼランペンギンはIUCNレッドリストの準絶滅危惧種に記載されており、一部の繁殖地では、近年、個体数の減少が危惧されている。死亡率の雌雄差は繁殖つがい数の減少に繋がり、ひいては個体群や種の存続に大きく影響する。本研究の成果は、当該種の保全対策に大きく貢献するのみならず、近年、社会的ニーズが高まっている生物多様性保全に関する海洋保護区の設定を考える上でも重要な見識をもたらすと期待される。
研究の背景と内容
越冬海域の雌雄差の理由として、本種のオスとメスの体の大きさの違いが関係していると考えられる(オスはメスよりも体が大きい)。一般的に、体の大きい個体ほど水中を深く潜ることができる。位置情報に併せてデータロガーに記録された潜水深度データから、実際に越冬期のマゼランペンギンのメスは、オスよりも浅い深度で餌を採っていることが示された。このことから、メスはオスとの餌を巡る競合を避けるため、オスの越冬海域よりもさらに遠くまで北上しているのだと考えられる。その他の可能性として、体の小さなメスは水中でより体温を失いやすいため、低緯度の水温の暖かい海域を好んでいるのかもしれない。
これまで種の保全に関する議論や活動では、多くの場合、繁殖期の生息域のみが考慮されている。この点において、本研究の結果は、種や生物多様性の保全において、以下の2点の重要性を提唱する。
①生物の保全において繁殖期・非繁殖期を含む1年を通した生息域の特定
②空間分布動態の種内差を考慮した保全海域の設定
マゼランペンギンのストランディングは、成鳥よりも巣立ち幼鳥の方が多いこともわかっている(巣立ち幼鳥でもストランディング個体はメスに偏っています)。
今回の研究により、越冬海域の性差がメスに偏ったストランディングの原因であることが明らかになった。しかし、なぜ、成鳥よりも巣立ち幼鳥の方が多くストランディングするのかについては未だ不明のまま。成鳥と巣立ち幼鳥では、移動パターンや主要な越冬海域が異なるのかもしれない。死亡率の性差と同様に、幼鳥が繁殖個体として新たに加わる数は繁殖個体群の増減に大きく影響する。今後の研究では、当該研究分野において一般的に知見の乏しい巣立ち幼鳥が、繁殖地を離れて数年後に帰還するまでの生態を明らかにすることが喫緊の課題である。
◆用語の説明
バイオロギング
動物に各種センサーを取り付けて、行動や生態を調査する研究手法(参考:日本バイオロギング研究会http://japan-biologgingsci.org/home/discipline/)。
マゼランペンギン(Magellanic Penguin Spheniscus magellanicus)
温帯~寒帯に生息するペンギン。アルゼンチンからチリにかけての沿岸およびフォークランド/マルビナス諸島で繁殖する。マゼランペンギンはカタクチイワシ(Argentine anchovy Engraulis anchoita)を主な餌としており、カタクチイワシの分布の季節変動に呼応して、非繁殖期になると繁殖地から離れて北上する。なお、今回の調査はアルゼンチン南部にある繁殖地Cabo dos Bahias, Chubut, Argentina(44°54?S, 65°32?W)にて実施した。
ストランディング
衰弱や怪我などによって海岸に漂着すること。通常、非繁殖期のマゼランペンギンは繁殖期のように陸上で過ごすことは少ない。マゼランペンギンのストランディングの原因として最も多いのは油汚染だが、油汚染が実際にどのように影響してストランディングするのかについては不明である。油汚染の影響は大きく分けて、体表面への付着による影響と体内摂取による影響がある。前者の場合、羽毛の防水能と断熱能が劣化し、低体温症になる。後者の場合、消化管や腎臓の代謝、血液系へ影響する。どちらにせよ、ペンギンは油汚染によって衰弱する。その他にも、漁業の網や漁具による負傷が報告されている。また、多くのストランディング個体(死亡個体)で胃内容物からプラスチック片が発見されている。
マゼランペンギンは冬になると繁殖地から1000km以上も離れたウルグアイやブラジル南部の海域で、毎年、数千羽がストランディングすることが様々なメディアで取り上げられてきた。
ストランディング個体はオスよりもメスの方が多いことが過去の研究から知られていたが、その理由は謎のままであった。本研究で、マゼランペンギンのメスは、オスよりも繁殖地から遠い、ウルグアイからブラジル南部にかけての海域まで移動して越冬していることが明らかになった。メスが主に越冬している海域は、船舶の往来や油田開発、漁業などの人間活動が盛んな海域と重複しているため、オスに比べてメスの方が飢餓や怪我などによってストランディングする可能性が高いのだろうと考えられる。
マゼランペンギンはIUCNレッドリストの準絶滅危惧種に記載されており、一部の繁殖地では、近年、個体数の減少が危惧されている。死亡率の雌雄差は繁殖つがい数の減少に繋がり、ひいては個体群や種の存続に大きく影響する。本研究の成果は、当該種の保全対策に大きく貢献するのみならず、近年、社会的ニーズが高まっている生物多様性保全に関する海洋保護区の設定を考える上でも重要な見識をもたらすと期待される。
研究の背景と内容
越冬海域の雌雄差の理由として、本種のオスとメスの体の大きさの違いが関係していると考えられる(オスはメスよりも体が大きい)。一般的に、体の大きい個体ほど水中を深く潜ることができる。位置情報に併せてデータロガーに記録された潜水深度データから、実際に越冬期のマゼランペンギンのメスは、オスよりも浅い深度で餌を採っていることが示された。このことから、メスはオスとの餌を巡る競合を避けるため、オスの越冬海域よりもさらに遠くまで北上しているのだと考えられる。その他の可能性として、体の小さなメスは水中でより体温を失いやすいため、低緯度の水温の暖かい海域を好んでいるのかもしれない。
これまで種の保全に関する議論や活動では、多くの場合、繁殖期の生息域のみが考慮されている。この点において、本研究の結果は、種や生物多様性の保全において、以下の2点の重要性を提唱する。
①生物の保全において繁殖期・非繁殖期を含む1年を通した生息域の特定
②空間分布動態の種内差を考慮した保全海域の設定
マゼランペンギンのストランディングは、成鳥よりも巣立ち幼鳥の方が多いこともわかっている(巣立ち幼鳥でもストランディング個体はメスに偏っています)。
今回の研究により、越冬海域の性差がメスに偏ったストランディングの原因であることが明らかになった。しかし、なぜ、成鳥よりも巣立ち幼鳥の方が多くストランディングするのかについては未だ不明のまま。成鳥と巣立ち幼鳥では、移動パターンや主要な越冬海域が異なるのかもしれない。死亡率の性差と同様に、幼鳥が繁殖個体として新たに加わる数は繁殖個体群の増減に大きく影響する。今後の研究では、当該研究分野において一般的に知見の乏しい巣立ち幼鳥が、繁殖地を離れて数年後に帰還するまでの生態を明らかにすることが喫緊の課題である。
◆用語の説明
バイオロギング
動物に各種センサーを取り付けて、行動や生態を調査する研究手法(参考:日本バイオロギング研究会http://japan-biologgingsci.org/home/discipline/)。
マゼランペンギン(Magellanic Penguin Spheniscus magellanicus)
温帯~寒帯に生息するペンギン。アルゼンチンからチリにかけての沿岸およびフォークランド/マルビナス諸島で繁殖する。マゼランペンギンはカタクチイワシ(Argentine anchovy Engraulis anchoita)を主な餌としており、カタクチイワシの分布の季節変動に呼応して、非繁殖期になると繁殖地から離れて北上する。なお、今回の調査はアルゼンチン南部にある繁殖地Cabo dos Bahias, Chubut, Argentina(44°54?S, 65°32?W)にて実施した。
ストランディング
衰弱や怪我などによって海岸に漂着すること。通常、非繁殖期のマゼランペンギンは繁殖期のように陸上で過ごすことは少ない。マゼランペンギンのストランディングの原因として最も多いのは油汚染だが、油汚染が実際にどのように影響してストランディングするのかについては不明である。油汚染の影響は大きく分けて、体表面への付着による影響と体内摂取による影響がある。前者の場合、羽毛の防水能と断熱能が劣化し、低体温症になる。後者の場合、消化管や腎臓の代謝、血液系へ影響する。どちらにせよ、ペンギンは油汚染によって衰弱する。その他にも、漁業の網や漁具による負傷が報告されている。また、多くのストランディング個体(死亡個体)で胃内容物からプラスチック片が発見されている。