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哺乳類シリアンハムスターの冬眠に備えた白色脂肪変化を明らかに

2019-02-10 | 生物
 冬眠は長い冬を低体温の状態で乗り切る現象である。外気温に体温が左右されるカエルなどの変温動物は、寒冷環境下では低体温の冬眠状態となる。これに対し哺乳類は体内で熱を作り出すことにより体温を37℃付近に維持する恒温動物であり、私たちヒトをはじめとする多くの哺乳類は冬眠できない。これは、長時間の低体温状態は心停止や組織障害を引き起こすからである。
 しかし、一部の哺乳類は変温動物と同じように低体温状態で冬眠できる。これらの動物の冬眠を可能とする仕組みについては、いまだ多くの点が不明である。冬眠を可能とする仕組みの一例に、脂肪の有効活用がある。冬眠するツキノワグマ・ヒグマやジリスなどは、秋になると体内に脂肪を大量に蓄えたのち巣穴にこもり、冬の間はほぼ絶食状態で貯蔵脂肪を燃焼させて生き延びる。同じく冬眠する小型のシマリスやハムスターは、体内に貯蔵した脂肪を活用しつつもその量には限りがあるため、巣穴に蓄えた大量の餌を食べて冬の間を生き延びる。しかし、脂肪をうまく蓄えさらに有効活用するために、冬眠前や冬眠期間に体がどう変化するのかについて、その詳細は不明であった。
 北海道大学低温科学研究所の山口良文教授、東京大学大学院薬学系研究科大学院生(当時)の茶山由一氏、三浦正幸教授、自然科学研究機構基礎生物学研究所の重信秀治准教授、福山大学薬学部の田村 豊教授らの研究グループは、餌を貯蔵しながら冬眠する哺乳類シリアンハムスターが、冬眠時、エネルギーを蓄える機能をもつ白色脂肪組織において、脂肪を合成する同化系と分解する異化系の両方を著しく増強させることを解明した。(2019/1/29)
 山口教授らの研究グループは、冬眠の仕組みを調べるうえで有用なモデル生物・シリアンハムスターに着目した。冬眠できる体の状態を調べるために、夏条件(温暖長日)で飼育された冬眠しない状態のシリアンハムスターと、冬条件(寒冷短日)に長期間置かれ冬眠する状態になったシリアンハムスターとの比較解析を行った。
 本研究では夏条件で育てた個体を冬条件に移すその際の組織変化の詳細を調べた。冬条件に移した個体では、皮下と腹腔内で白色脂肪組織重量の減少が見られた。これは寒冷ストレス等により代謝が進んだためと考えられる。しかし、冬条件で2ヶ月以上過ごした個体や、その後冬眠をはじめた個体では、体重あたりの白色脂肪組織の割合の増加が認められた。これは、白色脂肪を保存しようとする働きであると考えられる。そこでこの仕組みに迫るべく、次世代シーケンサー解析により、皮下白色脂肪組織で発現する遺伝子情報を網羅的に取得した。
 結果、冬条件に長く置かれた個体では、夏の個体に比べ中性脂肪を分解しエネルギーを取り出す異化反応に関わる酵素群の遺伝子発現量が増大することがわかった。これは冬眠動物が貯蔵脂肪を用いて冬を乗り切ることから、予想された結果だった。冬条件の個体では、異化反応とは逆に中性脂肪や脂質の合成に関わる同化反応系の酵素群や、脂肪酸の不飽和化に関わる酵
素群の遺伝子発現も増大していた。こうした、冬眠期における脂質同化系の亢進は、絶食状態で冬を乗り切るクマやジリスなどの冬眠動物では知られていない現象で、餌貯蔵型の冬眠動物ならではの性質といえる。不飽和化した脂肪酸は低温でも固まりにくくなるため、それ自身や細胞膜脂質の低温での流動性を高め、冬眠に備えた全身脂質組成の変化に必要と考えられる。 これら脂質の異化系・同化系に関わる遺伝子群の同時発現亢進は、長期間の冬条件に置かれてから2ヶ月以降から生じることが時系列解析により判明した。これは、先に観察した、白色脂肪の体重あたりの割合が増加する時期と一致する。つまりこの時点から、体が冬眠に先立ち、脂肪の効率的代謝系を発達させることが明らかとなった。
 こうした脂質の異化系・同化系の同時亢進は、冬眠終了とともに、冬眠前のレベルまで低下した。これは、今回観察された脂質の異化系・同化系の同時亢進が、冬眠という現象と密接に関わることを意味しており、冬眠にとって重要な現象であると考えられる。
 研究グループではさらに、これら脂質代謝の同時亢進がどのようなシグナル経路で制御されうるのかを、シリアンハムスターの白色脂肪組織の初代培養を用いて解析した。
 結果、肥満症や生活習慣病の治療標的でもある、PPARs(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)と呼ばれる核内受容体を活性化させるシグナルが、冬眠期のシリアンハムスター生体内で生じることが示唆された。本研究ではこれ以外にも、長期間の冬条件に置かれたシリアンハムスターの白色脂肪組織の中には、ベージュ細胞と呼ばれる、褐色脂肪細胞に類似した細胞が少数であるが出現することも明らかにした。褐色脂肪細胞は体のふるえを伴わずに熱を生み出す能力(非ふるえ熱産生能)を有することから冬眠に非常に重要な器官であるが、白色脂肪細胞内でのベージュ細胞の存在はこれまで冬眠動物では知られていない。
 褐色脂肪細胞やベージュ細胞は、熱産生能だけでなく他組織の代謝調節活性や内分泌組織としての役割も有することがマウスやヒトでの研究で近年明らかになりつつあり、冬眠動物におけるその機能の解明も今後の興味深い課題である。
 本研究で明らかになった、冬眠動物の脂肪の効率的な貯蔵・燃焼の確立に関わる因子を今後明らかにすることで、肥満症や生活習慣病の理解に新しい視座を与え、その治療や予防に有効な手法も見いだせる可能性がある。
 ◆用語の説明
 〇モデル生物
 実験室での飼育や維持が比較的容易で、かつ遺伝学的背景が担保され分子生物学的解析手法などによりメカニズムの因果関係が検証できる生物のこと。多細胞生物ではマウス・ショウジョウバエ・シロイヌナズナ・ツメガエル・メダカなどが代表例。
 〇次世代シーケンサー
 遺伝子をコードするDNA やRNA の塩基配列を高速で大量に解読することができる機械。
 〇亢進
 機能が活発になること。
 〇冬眠終了
 冬条件に置かれたシリアンハムスターの冬眠は、数ヶ月ののち,冬条件に置かれているにも関わらず自発的に終了する。

 昨日・今日ととても寒い。北国では最高気温が0℃以下、マイナス10とか20℃とか、早く寒さが行ってくれ。
 梅田川も一部が氷結している。渡り鳥も少ない・・。