2018.12.10(月)雨
「死に山」の書評に載っていた1940年1月の朝日連峰の遭難事故の記事がこの本に載っているという情報を得た。
「日翳の山 ひなたの山」上田哲農著 平凡社ライブラリー 借本
上田哲農氏の本は多くを読んでいるので、蔵書の中にあるかなと思って探してみたが見つからない。やむなく図書館で借りてその部分を読んでみたのだが、「死に山」同様なんとも不気味な内容であった。氏の文章は情緒的なものが多く、傍らの絵とともに親しみやすいものなのだが、中にいくつか山の怪であったり、不思議な事件であったりが存在する。氏は第一次RCCの代表を務められた往年のクライマーで登攀の記録は先人の労を偲ばせるものがある。
さて問題の文は、「岳妖 ー本当にあった話である」という項で、1940年1月に朝日岳周辺で起きた謎の遭難事故の顛末が書かれている。優秀な登山家O、M二人とガイドとしてトップクラスのUなる人物がさして天気も悪くない、危険地帯でも無い尾根で忽然と姿を消してしまうのだ。「死に山」同様、出発前の様子、捜索の様子、遺体発見時の様子、遺体収容後の原因究明など細かに書かれているのだが、遭難の原因が杳としてわからない。あらゆる可能性を消去法で消去していくと何も残らない。リングワンリングでもない、猛吹雪でもない、疲労死でもない、雪崩もありえない。「死に山」の遭難と違う点は、遺体に損傷が無いことだろう。結局通常考えにくい発狂説や妖怪説が出てくる。
「死に山」の遭難原因がここで言えないので表現しにくいのだが、わたしは両遭難の原因は違うものと考えている。「死に山」の原因とされる現象が朝日岳の当日の様子では起きにくいからだ。両事件の原因探究に抜け落ちていることがある。それは毒ガスである。火山性ガスが人の命を奪うことはままあることで、実際の遭難も起きている。「死に山」という奇妙な山名の由来は、木や草が生えない山ということだ。寒さのせいかもしれないが火山性ガスの可能性は無いのだろうか。朝日岳だってそうだ、登山基地は朝日鉱泉小屋となっている。鉱泉の湧くところなら火山性ガスが発生する可能性はあり得るのではないか。よしんば火山性ガスが発生しなくても、人を死に至らしめるガスの発生はあるのではないだろうか。「死に山」も「岳妖」も毒ガスについては何の言及も無い。ちろん毒ガスが原因と決めつけるわけではないが、可能性として検討する価値はあるのではないか。
哲農氏の文中に、Mのキスリングの口紐が引き抜かれていたとある。山行中にキスリングの口紐を引き抜くということはあり得ない。氏は謎としているが、わたしは緊急に雪崩紐として利用したのではないかと想像している。雪崩紐とは、デブリに埋まった際に発見しやすくするための紐である。雪崩は起きえない地形と言われているが、雪崩と錯覚するような音などがした際に、慌ててキスリングの紐をなだれ紐代わりに取り出したとすればその奇妙な行動の謎が解ける。ただ、遺体発見時にはその紐は無かったようなので、やはり謎は謎である。「死に山」の遭難原因は一応究明されたとしても、朝日岳の原因はやっぱり謎である。おわり
【今日のじょん】12月6日にささやかにじょんのびの忘年会を催した。今年も大過なく暮れました、感謝感謝!じょんはって?まあるくなって寝てました。