2016.3.30(木)曇り 「近世の医療史」を読む-(1)
椅子が無い近世以前には腰痛は無かったのではという滑稽な論を書いたら、常見先生から「面白い話ですね」とコメントが入った。もっとも椅子だけが腰痛の原因ではないだろうから腰痛が無いということはないと思うのだが、今日の大多数が悩んでいるようなタイプの腰痛は少なかったのではと予想している。ただ、そんなことを証明できるものではないなと考えていたところに新聞の書評に本書を見つけた。昨年発行されたばかりで値段も25,000円するのでとても手が出ない。図書館検索で探すと府立図書館にあったので、リクエストして借りることが出来た。近世の医療の中で腰痛がどのように扱われているか、少しでも手がかりがつかめないかと楽しみに表紙を開いた。
「近世の医療史 京洛・大坂ゆかりの名医」今井 秀著 ミヤオビパブリッシング発行 2015年2月 第1刷発行 府立図書館借本
見開きA3版、557ページにわたる大作で、真剣に読んだら2,3ヶ月かかりそうだ。腰痛に関わる部分だけを探すべく流し読みをするのだが、ついつい夢中になって見てしまうところもいくつかある。人物像、書物、絵図、お墓などとにかく夥しい写真が掲載されている。よくぞここまで集められたかと思う。40名の著名な医家についてその出自、人となり、親族、弟子、功績、著書、菩提寺から墓所まで足で歩いて収集した資料が網羅されており、多くの絵図、写真やエピソードで飽きることなく楽しませてくれる。
近世の腰痛の実態を探ろうというわたしの目論見は見事にはずれた。今でいうところの原因のはっきりしない慢性的な腰痛などというのは江戸時代の名医が扱う病気では無いだろう。やはり主流になるのは伝染性の病気、外科、産科、眼科等と言ったところで、もちろん漢方の薬学なども医家の扱うところである。整形外科らしき分野も見られるが、いわゆる骨接ぎで、骨折、脱臼などの治療が主だったようだ。腰痛を扱うのは按摩や灸などを施す庶民であって、本書に出てくるような名医と言われるような医家ではないだろう。
それでも書物の中に腰痛という言葉は出てくる。多くの医学の書物が紹介されているが、その中に「腰痛門」というふうに分類されている。腰痛門の中身が見られないので何とも言えないが、現在でさえも原因が解らず、分類しかねている腰痛が往時に特定できようはずがない。つづく