欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が12月の追加緩和を示唆し、株高・円安が進んだ。しかし市場では冷めた声も多い。ECB以外の中央銀行が緩和方向に動けば、為替面での効果は相殺される。金融緩和で景気や物価が、劇的に改善するとの期待も乏しい。流動性相場の加速で株高が進んだとしても、実体経済とのかい離は逆に広がりそうだ。
<通貨安競争なら円安に限界>
追加緩和を実施したわけではない。具体策を明示したわけでもない。検討するとの発言だけで、この株高・円安(対ドル)だ。まさに「ドラギマジック」と言えよう。「金融緩和が示唆されたことで、流動性相場の継続が意識され、ヘッジファンドなどの海外勢だけでなく、国内勢も買いに動いた」(国内証券の株式担当トレーダー)という。
一部の市場関係者は、金融政策の「先物取引」と表現。伝統的にギリギリまで「本音」を明かさない中銀スタイルから飛躍した対応で市場を驚かせた格好だ。
「ドラギマジック」を受けて市場が注目するのは、日米の中銀がこれでどう動くかだ。
米国は、これまでドル高に苦しんできたが、ドラギ発言でユーロ安・ドル高が進行。ドルは対ユーロで約2カ月ぶりの高値を付けた。佳境を迎えている第3・四半期の米企業決算発表では、ドル高の悪影響がグローバル企業に出ていることが明らかになった。
マイクロソフト(MSFT.O)は減収、コカ・コーラ(KO.N)は売上高が市場予想に届かなかった。「利上げが先送りされる可能性は高まった」(三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミスト、鈴木敏之氏)との受け止めも多い。
一方、見方が分かれているのは日銀の動きだ。今回すでに株高・円安が進行したことで「必要性は後退した」(マネックス証券シニア・ストラテジストの山本雅文氏)との声もあるが、新興国経済への懸念を示したECBとの「整合性」を取るため、追加緩和に動くとの予想も根強い。
ドラギ総裁が懸念を示したのは、原油安によるインフレ期待の低下だ。しかし、通貨安でデフレを防ごうとすれば、他国には通貨高となって跳ね返る。各国がみな緩和方向に動けば、通貨のペアである為替相場への影響は相殺される。円安の持続性には疑問もある。
<期待低い景気刺激効果>
円安が進まなければ、日本企業の業績期待も高まりにくい。23日の日経平均(.N225)は一時400円を超える上昇となったが、業種別では証券株や不動産株が上位に並んだ。輸送用機器や電気機器なども買われたが、上昇率は日経平均並み。足元の株高は過剰流動性(期待)を背景にした金融相場であることを示している。
「金融相場で株は上がるかもしれない。しかし、これまでの結果をみても、金融緩和で景気や物価が良くなるとは期待しにくい」と、JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は冷めた見方を示す。
ECBは今年3月から現在の量的緩和策(QE)を開始したが、9月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)改定値は前年比0.1%低下。エネルギー価格の下落が背景とはいえ、伸び率は3月以降で初のマイナスに陥った。
銀行貸出などは増えているが、ドラギ総裁自身が認めているように新興国経済の減速をカバーできるほどの力強さはない。
日本も2013年の黒田東彦氏の日銀総裁就任以降、「バズーカ砲」を2度放ってきたが、2年を経過しても物価は目標の2%に達しない。7─9月期は2四半期連続のマイナス成長がささやかれる。
コモディティ市場では、株や為替の喧騒を横目に金や原油は小動き。過剰流動性(期待)のプラス要因を、ドル高のマイナス要因が相殺している。「金融緩和で需要が回復すると期待した買いはみられない」(ばんせい投信投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏)という。
<株価と経済のかい離を警戒>
長期投資家も慎重。しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏は、市場の高まる金融緩和期待に対し「はしごを外されるリスクもある」と警戒する。
実際、ECBが追加緩和に動くとしても、手段はそう残されていない。現在、月額600億ユーロの国債買い入れを続けているが、経済規模に比例した買い入れを行っており、ドイツ国債が約4分の1を占める。ドイツは記録的な財政黒字状態であり、国債発行を増加させる必要性は低く、4年債以下は購入上限であるマイナス0.2%を下回る。QEの期間を延ばせば延ばすほど買い入れは厳しくなる。
選択肢が限られているのは、日銀も同じ。15年の日銀買い入れ額は、償還分を含めると年間110兆円程度。15年度国債発行計画における発行額(短国除く)126.4兆円の9割弱を買い入れる計算になる。「もし、追加緩和をやれば最後の緩和になる。カードは最後まで取っておくのではないか」(外資系投信ストラテジスト)との見方もある。
「マジック」の余韻が残り、12月までは追加緩和期待で盛り上がりそうだ。しかし、株価と実体経済のかい離が広がれば、波乱相場の要因となる。市場に出回る緩和マネーが増えれば増えるほど、この夏経験した「揺れ」より大きくなるかもしれない。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)
<通貨安競争なら円安に限界>
追加緩和を実施したわけではない。具体策を明示したわけでもない。検討するとの発言だけで、この株高・円安(対ドル)だ。まさに「ドラギマジック」と言えよう。「金融緩和が示唆されたことで、流動性相場の継続が意識され、ヘッジファンドなどの海外勢だけでなく、国内勢も買いに動いた」(国内証券の株式担当トレーダー)という。
一部の市場関係者は、金融政策の「先物取引」と表現。伝統的にギリギリまで「本音」を明かさない中銀スタイルから飛躍した対応で市場を驚かせた格好だ。
「ドラギマジック」を受けて市場が注目するのは、日米の中銀がこれでどう動くかだ。
米国は、これまでドル高に苦しんできたが、ドラギ発言でユーロ安・ドル高が進行。ドルは対ユーロで約2カ月ぶりの高値を付けた。佳境を迎えている第3・四半期の米企業決算発表では、ドル高の悪影響がグローバル企業に出ていることが明らかになった。
マイクロソフト(MSFT.O)は減収、コカ・コーラ(KO.N)は売上高が市場予想に届かなかった。「利上げが先送りされる可能性は高まった」(三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミスト、鈴木敏之氏)との受け止めも多い。
一方、見方が分かれているのは日銀の動きだ。今回すでに株高・円安が進行したことで「必要性は後退した」(マネックス証券シニア・ストラテジストの山本雅文氏)との声もあるが、新興国経済への懸念を示したECBとの「整合性」を取るため、追加緩和に動くとの予想も根強い。
ドラギ総裁が懸念を示したのは、原油安によるインフレ期待の低下だ。しかし、通貨安でデフレを防ごうとすれば、他国には通貨高となって跳ね返る。各国がみな緩和方向に動けば、通貨のペアである為替相場への影響は相殺される。円安の持続性には疑問もある。
<期待低い景気刺激効果>
円安が進まなければ、日本企業の業績期待も高まりにくい。23日の日経平均(.N225)は一時400円を超える上昇となったが、業種別では証券株や不動産株が上位に並んだ。輸送用機器や電気機器なども買われたが、上昇率は日経平均並み。足元の株高は過剰流動性(期待)を背景にした金融相場であることを示している。
「金融相場で株は上がるかもしれない。しかし、これまでの結果をみても、金融緩和で景気や物価が良くなるとは期待しにくい」と、JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は冷めた見方を示す。
ECBは今年3月から現在の量的緩和策(QE)を開始したが、9月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)改定値は前年比0.1%低下。エネルギー価格の下落が背景とはいえ、伸び率は3月以降で初のマイナスに陥った。
銀行貸出などは増えているが、ドラギ総裁自身が認めているように新興国経済の減速をカバーできるほどの力強さはない。
日本も2013年の黒田東彦氏の日銀総裁就任以降、「バズーカ砲」を2度放ってきたが、2年を経過しても物価は目標の2%に達しない。7─9月期は2四半期連続のマイナス成長がささやかれる。
コモディティ市場では、株や為替の喧騒を横目に金や原油は小動き。過剰流動性(期待)のプラス要因を、ドル高のマイナス要因が相殺している。「金融緩和で需要が回復すると期待した買いはみられない」(ばんせい投信投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏)という。
<株価と経済のかい離を警戒>
長期投資家も慎重。しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏は、市場の高まる金融緩和期待に対し「はしごを外されるリスクもある」と警戒する。
実際、ECBが追加緩和に動くとしても、手段はそう残されていない。現在、月額600億ユーロの国債買い入れを続けているが、経済規模に比例した買い入れを行っており、ドイツ国債が約4分の1を占める。ドイツは記録的な財政黒字状態であり、国債発行を増加させる必要性は低く、4年債以下は購入上限であるマイナス0.2%を下回る。QEの期間を延ばせば延ばすほど買い入れは厳しくなる。
選択肢が限られているのは、日銀も同じ。15年の日銀買い入れ額は、償還分を含めると年間110兆円程度。15年度国債発行計画における発行額(短国除く)126.4兆円の9割弱を買い入れる計算になる。「もし、追加緩和をやれば最後の緩和になる。カードは最後まで取っておくのではないか」(外資系投信ストラテジスト)との見方もある。
「マジック」の余韻が残り、12月までは追加緩和期待で盛り上がりそうだ。しかし、株価と実体経済のかい離が広がれば、波乱相場の要因となる。市場に出回る緩和マネーが増えれば増えるほど、この夏経験した「揺れ」より大きくなるかもしれない。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)
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