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自民党京都府連の「選挙買収疑惑」、常態化を許した3つの理由

2022年03月01日 07時30分11秒 | 選挙

筆者が『文藝春秋』3月号(2月10日発売)で報じた自民党京都府連の選挙買収問題がいまだ鎮火しない。近く京都の弁護士らによって京都府連会長である西田昌司参院議員などが刑事告発されることになり、今後「選挙と金」を巡る動きについて、捜査のメスが入るのかに注目が集まっている。なぜこのような現金配布が続けられてきたのか。そこには大きく3つの理由がある。(フリージャーナリスト 赤石晋一郎)

システム化された

京都府連の選挙買収

 筆者が執筆した『文藝春秋』の記事では、国政選挙において自民党候補者が選挙区内の府議・市議に自民党京都府連を通じて各50万円を配っていたという“選挙買収疑惑”を報じた。

 元府連事務局長が作成した《引継書》では、この一連のスキームを「マネーロンダリング(資金洗浄)」と表現。候補者が直接50万円を地方議員に手渡せば選挙買収になってしまうので、府連を通じて渡し、政治資金収支報告書に記載することで違法行為を合法に見せかける仕組みを、京都府連は国政選挙の度に行っていた疑惑を記事では指摘した。

 国政選挙で候補者が地方議員に金を配る。政治とカネの問題が叫び続けられるなか、なぜこうした問題が何回も起こるのか。本稿ではその背景について検証してみたい。

 京都に限らず国会議員が選挙時に地方議員を「集票マシン」と考え、彼らに金をバラまくという実態は存在していた。それが顕在化したのが河井夫妻による参議院選挙買収事件だった、といえよう。また昨年末にも自民党の泉田裕彦衆院議員が星野伊佐夫新潟県議から「(選挙用の)裏金を要求された」と告発し騒動となったことも記憶に新しい。しかし、いずれの事件・騒動も、国会議員の意思や事情によって金を配るか否かが決断されていた事件でもあった。

 一方で京都府連の特徴は、選挙前に金を配るということを「定番化」させたところにある。衆院選、参院選といった国政選挙では必ず大きなお金の動きが起きていた。

 そのスキームを簡単に説明すると次のような金の流れになる。

【選挙区支部(国会議員)】→【自民党・京都府連】→【府議・市議】

 いわば京都では国政選挙の度に金を配り選挙協力を仰ぐという構図が、システム化されていたともいえるだろう。

小選挙区制によって

地方議員への金が必要に

 なぜ現金配布が定番化したのか。

 取材のなかで、その第一の理由として「小選挙区制」を挙げる政界関係者が多かった。

 かつて中選挙区の時代では、1つの選挙区で自民党候補者が複数立つということが常識だった。国会議員は地元に地方議員の派閥を持っていたケースも多く、誰の選挙応援をするかについては、地方議員がある程度選択できる余地があったのだ。

 ところが小選挙区制となり、1選挙区に自民党候補は1人ということが常態化する。落下傘候補として地縁・人脈のない候補者が出馬するというケースも少なく、その選挙区に地盤を持つ地方議員は縁も所縁もない候補者の選挙応援を求められることになる。つまり地方議員が国政選挙候補者を応援するインセンティブとして“金”が求められるようになったというのだ。

 筆者が取材をした元国会議員も「地方議員の力が強い選挙区では、彼らの言いなりで金を要求された。特に新人候補や選挙に弱い人間は、金を払わないと選挙応援してもらえないと考えてしまう」と証言している。

「本来は国会議員でも地元に後援会組織を作り、地道に政策と政治家としてのキャラクターを理解してもらう活動をしておけば、地方議員に頼らずとも選挙は戦えるようになるはずなのです。それが、アウトソーシング感覚で国会議員が地方議員に金を払い選挙を助けてもらうようなことを繰り返しているうちに、ますます地方議員なしでは選挙を戦えない体質になってしまったのです。言い換えれば、国会議員が本来すべきである地盤を固める仕事をしていないから、金権選挙に頼らざるを得ないようになってしまったのです。参院の二之湯智大臣、西田昌司氏も選挙は決して強いとはいえない人たちなので、同じ手法を利用していたといわれています」(府連関係者)

京都府連で発覚した

数々のスキャンダル

 第二の理由といえるのが、政治家の低いコンプライアンス意識だ。実は自民党京都府連は、ここ数カ月で数多くの“問題”が発覚していた組織だった。

 まず、昨年12月8日に「“ミセス京都”市議の政務活動費不正を夫が実名告発」という記事が文春オンラインで配信された。元ミセス京都のファイナリストだった自民党・豊田恵美市議が、事務所職員だった夫がけがで働いていない期間に政務活動費から給与を不正支出していた疑いを報じたのだ。

 同じ昨年12月に、今度は京都府議である岸本裕一氏が公職選挙法違反の疑いで書類送検されたという報道が出た。容疑は岸本府議が昨年10月の衆院選で選挙運動の見返りに報酬を支払う約束をしたとする疑いだった。

「岸本府議は衆院選公示前、運動員の女性3人に対し選挙期間中に衆院選候補者だった勝目康氏への投票を有権者に呼び掛ける『電話作戦』をしてもらう見返りとして、1時間当たり1000円の報酬を支払う約束をしたとされています。公選法は、ウグイス嬢と呼ばれるアナウンス担当運動員など一部の例外を除き、選挙運動のスタッフに報酬を支払うことを禁止しているため捜査対象となった。岸本府議はもともとトラブルが多い人物で、初当選前に無免許運転を繰り返していたとして罰金刑を食らっていたこともある。府警から常にマークされる存在で、今回の選挙でもその脇の甘さを露呈してしまったのです。岸本氏は後に府議辞任を余儀なくされています」(社会部記者)

 岸本氏による公職選挙法違反は昨年の衆院選で起きたものであり、まさに京都府連のマネロン選挙買収疑惑が発覚する予兆を感じさせる出来事だったといえる。

 このように京都府連はわずか1カ月あまりの間に何件ものスキャンダルを起こす一方で、問題が続発する根本を是正しようという動きは鈍いままだった。こうしたコンプライアンス意識の低さが、選挙買収疑惑の背景にはあるとみる向きは少なくない。

ブラックボックスの

政治資金収支報告書

 第三の理由は政治資金収支報告書が“ブラックボックス”になっている、という問題がある。筆者が入手した京都府連事務局長が作成した引継書には次のように書かれている。

〈次に、選対会議の開催と併せて、その会議の後には、各候補者からの原資による活動費を府議会議員、京都市議会議員に交付しなければなりません。

 この世界、どうして「お金!」「お金」なのかは分かりませんが、選挙の都度、応援、支援してくれる府議会議員、市議会議員には、活動費として交付するシステムとなっているのです。

 活動費は、議員1人につき50万円です。候補者が府連に寄付し、それを原資として府連が各議員に交付するのです。本当に回りくどいシステムなのですが、候補者がダイレクトに議員に交付すれば、公職選挙上は買収と言うことになりますので、府連から交付することとし、いわばマネーロンダリングをするのです〉

 引継書に書かれたこのスキームは、選挙買収の金のやりとりを京都府連や各政治団体の政治資金収支報告書に記載することで、金の流れを“合法化”、つまりマネーロンダリングしようというものだ。実は当局には「警察などが政治団体の捜査に入ることは、政治活動の自由を妨げる可能性があると及び腰になりがち」(府連関係者)という事情があるのだという。

 長らく政治資金規正法はザル法だと批判されてきた過去がある。例えば日本維新の会の池下卓衆院議員(大阪10区)の政治団体が、池下氏の父から事務所を無償提供された問題が浮上したときのケース。政治資金規正法に抵触する可能性があるという指摘に対して、池下氏は「報告書を修正しており、問題はないと考えている」と答えていたのだ。

 政治資金の問題が浮上しても、議員の「適正に処理している」という言い分が通用したり、「政治資金収支報告書を修正する」というような回答だけで問題が収束するというケースが多い。

 なぜかというと、同法は罰則規定が緩い法律として知られているからだ。政治資金規正法は総務省のホームページに「政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」の法律とされているように、「政治活動を国民がチェックする」(法曹関係者)ことを主目的とてしている法律だからだ。故に法令違反を指摘されても“怖くない”という意識が議員のなかにあるといわれている。

 京都府連の対応も同様だった。筆者がマネロン選挙買収疑惑については取材をしていると、西田氏をはじめとして関係議員たちが「政治資金について法令に従い適切に処理している」と回答するケースが続発した。

 党勢拡大の金であり選挙買収ではないという説明を西田氏らは繰り返しているが、事業明細などを提示して党勢拡大の費用だった根拠を提示しているわけでは決してなく、政治資金規正法を盾にそう強弁しているだけともみえる説明の仕方なのである。

 府連会長の西田氏はYouTubeで一方的に「事実無根」と持論を述べるだけで、説明責任を果たそうとすらしない。大ざっぱに言えば政治資金収支報告書にさえ記載さえすれば、なんでもオッケーという考え方に政治家がなってしまっているともいえるだろう。

マネロン選挙買収疑惑が

黙認されたらどうなるか

 この選挙買収疑惑は国会でも議論となった。二之湯智・国家公安委員長(参院京都選挙区)は、2016年の参院選において府連を通じて金を配布していたことについて、野党から激しく追及を受けたのだ。

 二之湯国家公安委員長は選挙買収を否定しながらも、「(960万円は)私の思いで寄付をさせていただいた」と、あいまいな答弁を繰り返したことで国会が紛糾。国家公安委員長は全国の警察庁を所管するポジションであり、選挙違反を摘発する側のトップとしてその資質が問われる事態となっている。

 もし、国会、そして警察や検察が、京都で行われた“マネロン選挙買収疑惑”を黙認してしまった場合に何が起こりうるのか?

 国政選挙に出馬する各政党の候補者は、こぞってマネロン選挙買収を行うようになり、金の力で選挙を勝ち抜こうとする人間が増えることとなろう。つまり今後の展開によってはモラルハザードが起きかねない局面に来ているともいえるのだ。

 3つの背景について総じていえることは選挙をあるべき姿に戻さなければいけない、ということなのである。選挙は民主主義の根幹を担うシステムであり、それがゆがめられてはならない。


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