このところ中国の住宅バブル崩壊を危ぶむ声が急増している。9月から10月にかけて多くのメディア、投資銀行、そして豪州政府までもが中国住宅市場の過熱に警鐘を鳴らしている。中国政府が政策の舵取りを誤れば金融危機やコモディティー価格の急落などで世界経済を揺るがしかねない。
ここでは中国の住宅市場に対する見方を紹介し、有効な手立てを打ち出すためには中国政府が抱える2つのジレンマを抱えていることを解説していこう。
■高騰が続く中国の住宅価格
まず中国の住宅市場の動きをおさらいしよう。まず、販売金額は年初の急伸のあと8月まで前年比40%以上の増加ペースが続いている。政府が発表する新築住宅の価格動向を見ても、8月は主要70都市のうち64都市で値上がりし、7月の51から大きく増加。昨年2月までの約半年間がほぼゼロであったのと比べると様変わりだ。前月比の値上がり幅は6年ぶりの高さとなり、一年前に比べ南京と上海が30%以上、北京は24%など高騰が続いている。
この住宅ブームの裏には政府の後押しがある。昨年12月の共産党政治局会議では、経済成長鈍化を食い止める一環として住宅在庫の解消が重要課題とされ、中央・地方政府はその後あらゆる政策を動員、住宅の需要喚起に躍起になっていた。
一方、個人を中心とする買い手側も各地の住宅販売フェアに殺到するなど過熱気味だ。株式市場が昨年高値の6割程度の低水準にとどまり、海外投資が厳しく制限されているなかで、住宅投資が手っ取り早い運用手段になっている。さらにシャドー・バンクを含む金融機関も、過剰能力を抱える製造業の資金需要が低迷するなかで住宅向け融資に活路を見出している。このように、政策支援、投機機運、金融機関の加担、さらには規制が強化される前の駆け込み需要などが相まって、買いが買いを呼ぶバブルの様相を強めている。
■バブル崩壊懸念、各機関が警鐘を鳴らす
この状況を受けて多くの機関が警鐘を鳴らしている。市場情報提供会社ブルームバーグは先月後半、中国の不動産市場にバブル崩壊の兆しがあるとして香港の調査会社のレポートを引用、「より喫緊なリスクは不動産バブル崩壊の恐れで経済が突然、大きく落ち込むこと」、「既にバブルになっている。投資家にとって重大な問題はこれがいつはじけるかである」と報じた。
米投資銀行ゴールドマン・サックスも10月初めの商品市場レポートで「政策主導の住宅ブームは単なる需要先食い。いずれ落ち込む」、「多くの勤労世帯にとって住宅は高嶺の花となり、これが続けば建設活動の低迷は長引く」とし、中国の不動産市場のリスクは高まり、少しでも落ち込むようであれば鉄鉱石や鉄鋼製品を中心に金属素材は厳しい局面を迎えると警告している。
これに呼応するかのように豪州政府は、中国住宅市場では「在庫は2016年前半にわずかに減少したが、供給過剰に変わりはない」、「建設活動の拡大はそう長く続かず、この分野で使われる物資は減少する方向」とし、同国の主要輸出品目である鉄鉱石の価格が来年は6%低下する恐れがあると懸念する。
このようなバブル懸念は国外にとどまらない。中国人民銀行(中央銀行)のエコノミストも不動産市場の「持続不能なバリュエーション」とその先行きに対し警鐘を鳴らし、「過度なバブル膨張に歯止めをかける方策が必要で、不動産セクターへの過剰融資を押さえ込む必要がある」と提言している。
■2つのジレンマを抱える当局
当局も手をこまねいているわけではない。すでに購入促進策を転換、現在では20以上の都市で頭金比率や購入軒数の規制を強めている。しかしその有効性に対し、ゴールドマンは先のレポートで「地方政府がこの半年間とってきた規制策は市場の過熱をほとんど抑えられていない」と懐疑的だ。日本経済新聞も「規制をかいくぐるネット金融の普及で、効果が上がるかは未知数」と報じている(10月13日朝刊)。
中国政府が金融政策と政治の両面でジレンマを抱えていることも先行きに不安を投げかける。コメルツ銀行AGは最近のレポートで「インフレ沈静化が続き成長率が鈍化する中で、金融政策は全体として緩和的であるべきだが、資産バブルの懸念があるため、さらなる緩和の余地は限られている」と政策の舵取りの難しさを指摘する。
また政治面では、構造改革を重視する習近平主席派と、景気刺激策で高成長路線への回帰を求める「守旧派」が対立しているとされる。最近の中国景気は政府主導の不動産とインフラ投資の拡大策に支えられた片肺飛行だ。メーカーや金融機関の過剰設備・債務の整理に本気で取り組めば景気が再び下振れする恐れがある。
10月11日、李克強首相はマカオでの演説で7-9月の中国経済は予想よりも良いと述べた。また中国経済は統計が示すほど鈍化していないと主張するエコノミストもいる。中国政府がバブル抑制を優先して財政拡大で対応するのか、はたまた財政健全性重視でバブル膨張に目をつぶり成長を優先させるのか。さらには、構造改革を強力に推進して「ゾンビ企業」淘汰に走れば企業破綻が増え、信用不安が海外に飛び火する恐れもある。
中国の今後の景気動向と政策運営によっては世界経済に大きな影響が出るリスクがあることを投資家は意識しておく必要があるだろう。(シニアアナリスト上杉光)
ここでは中国の住宅市場に対する見方を紹介し、有効な手立てを打ち出すためには中国政府が抱える2つのジレンマを抱えていることを解説していこう。
■高騰が続く中国の住宅価格
まず中国の住宅市場の動きをおさらいしよう。まず、販売金額は年初の急伸のあと8月まで前年比40%以上の増加ペースが続いている。政府が発表する新築住宅の価格動向を見ても、8月は主要70都市のうち64都市で値上がりし、7月の51から大きく増加。昨年2月までの約半年間がほぼゼロであったのと比べると様変わりだ。前月比の値上がり幅は6年ぶりの高さとなり、一年前に比べ南京と上海が30%以上、北京は24%など高騰が続いている。
この住宅ブームの裏には政府の後押しがある。昨年12月の共産党政治局会議では、経済成長鈍化を食い止める一環として住宅在庫の解消が重要課題とされ、中央・地方政府はその後あらゆる政策を動員、住宅の需要喚起に躍起になっていた。
一方、個人を中心とする買い手側も各地の住宅販売フェアに殺到するなど過熱気味だ。株式市場が昨年高値の6割程度の低水準にとどまり、海外投資が厳しく制限されているなかで、住宅投資が手っ取り早い運用手段になっている。さらにシャドー・バンクを含む金融機関も、過剰能力を抱える製造業の資金需要が低迷するなかで住宅向け融資に活路を見出している。このように、政策支援、投機機運、金融機関の加担、さらには規制が強化される前の駆け込み需要などが相まって、買いが買いを呼ぶバブルの様相を強めている。
■バブル崩壊懸念、各機関が警鐘を鳴らす
この状況を受けて多くの機関が警鐘を鳴らしている。市場情報提供会社ブルームバーグは先月後半、中国の不動産市場にバブル崩壊の兆しがあるとして香港の調査会社のレポートを引用、「より喫緊なリスクは不動産バブル崩壊の恐れで経済が突然、大きく落ち込むこと」、「既にバブルになっている。投資家にとって重大な問題はこれがいつはじけるかである」と報じた。
米投資銀行ゴールドマン・サックスも10月初めの商品市場レポートで「政策主導の住宅ブームは単なる需要先食い。いずれ落ち込む」、「多くの勤労世帯にとって住宅は高嶺の花となり、これが続けば建設活動の低迷は長引く」とし、中国の不動産市場のリスクは高まり、少しでも落ち込むようであれば鉄鉱石や鉄鋼製品を中心に金属素材は厳しい局面を迎えると警告している。
これに呼応するかのように豪州政府は、中国住宅市場では「在庫は2016年前半にわずかに減少したが、供給過剰に変わりはない」、「建設活動の拡大はそう長く続かず、この分野で使われる物資は減少する方向」とし、同国の主要輸出品目である鉄鉱石の価格が来年は6%低下する恐れがあると懸念する。
このようなバブル懸念は国外にとどまらない。中国人民銀行(中央銀行)のエコノミストも不動産市場の「持続不能なバリュエーション」とその先行きに対し警鐘を鳴らし、「過度なバブル膨張に歯止めをかける方策が必要で、不動産セクターへの過剰融資を押さえ込む必要がある」と提言している。
■2つのジレンマを抱える当局
当局も手をこまねいているわけではない。すでに購入促進策を転換、現在では20以上の都市で頭金比率や購入軒数の規制を強めている。しかしその有効性に対し、ゴールドマンは先のレポートで「地方政府がこの半年間とってきた規制策は市場の過熱をほとんど抑えられていない」と懐疑的だ。日本経済新聞も「規制をかいくぐるネット金融の普及で、効果が上がるかは未知数」と報じている(10月13日朝刊)。
中国政府が金融政策と政治の両面でジレンマを抱えていることも先行きに不安を投げかける。コメルツ銀行AGは最近のレポートで「インフレ沈静化が続き成長率が鈍化する中で、金融政策は全体として緩和的であるべきだが、資産バブルの懸念があるため、さらなる緩和の余地は限られている」と政策の舵取りの難しさを指摘する。
また政治面では、構造改革を重視する習近平主席派と、景気刺激策で高成長路線への回帰を求める「守旧派」が対立しているとされる。最近の中国景気は政府主導の不動産とインフラ投資の拡大策に支えられた片肺飛行だ。メーカーや金融機関の過剰設備・債務の整理に本気で取り組めば景気が再び下振れする恐れがある。
10月11日、李克強首相はマカオでの演説で7-9月の中国経済は予想よりも良いと述べた。また中国経済は統計が示すほど鈍化していないと主張するエコノミストもいる。中国政府がバブル抑制を優先して財政拡大で対応するのか、はたまた財政健全性重視でバブル膨張に目をつぶり成長を優先させるのか。さらには、構造改革を強力に推進して「ゾンビ企業」淘汰に走れば企業破綻が増え、信用不安が海外に飛び火する恐れもある。
中国の今後の景気動向と政策運営によっては世界経済に大きな影響が出るリスクがあることを投資家は意識しておく必要があるだろう。(シニアアナリスト上杉光)