IV 学習適応性検査
知能も適性も、比較的、安定した基盤的な能力として考えられてきた。しかし、学校で身につける能力の一つである学力を射程に入れると、知能と適性との関係だけから学力を考えるのでは充分とは言えない。これらは、操作することが難しく、子どもを分類することくらいにしか使えないからである。なお、これが検査使用を過度に抑制してしまっている不幸な現実が日本にはある。
それはさておくとしても、学力に影響する要因は、より広範の及んでいる。子どもの学力向上のための具体的な指導には、知能や適性以外の、教師や親、さらには子どもみずからが操作可能な要因にまで配慮することが必須となる。
ここで紹介する学習適応性検査(Academic Adjustment Inventory;AAI)は、こうした観点から開発されたものである。
1.学習適応性検査の構成
本検査は、大きく3つの領域から構成されているが、主となるのは、学習に直結する「学力向上要因の診断」の領域である。あとの2領域「原因帰属」と「学習スタイル」は、学習活動の背景にあって間接的ではあるが、持続的に影響を与えているものである。
(1)学力向上要因の診断
学力向上要因を、以下の4つのカテゴリーに分け、診断できるようになっている。
「学習態度」 勉強への意欲、勉強の計画、授業の受け方
「学習技能」 本の読み方・ノートの取り方、勉強の技術、テストの受け方
「学習環境」 勉強をめぐる家庭、学校、友人関係
「精神・身体の健康」 自主的態度、根気強さ、心身の健康
いずれの要因も学習に直接的に影響しているだけに、その的確な診断は、ただちに学習活動の改善につながる。
(2)原因帰属
ワイナー(Winer,B)による原因帰属理論に従って、成功失敗時の原因を、能力、努力、課題の困難度、運のいずれに帰属させる傾向があるかを診断できるようになっている。
原因帰属の傾向は、学力に直接影響を与えるものではないが、これが学習への好ましくない学習観や信念を形成して学習への動機づけを困難にさせることが知られているので、看過できない。
たとえば、失敗の原因を能力に帰属させる子ども、あるいは、成功の原因を運に帰属させるような子どもは、学習への動機づけが難しい。
子どもの原因帰属のくせを修正させる訓練(帰属療法)が効果的なことが知られている。
(3)学習スタイル
子どもの学習の仕方にはスタイルがある。本検査では、2つの観点からみた学習スタイルの診断ができるようになっている。
一つは、ケーガン(Kagan,J)による認知型である。情報処理のくせに着眼したものである。
「衝動型」は短時間での浅い処理をする傾向。エラーが多い。「熟慮型」は時間をかけた深い処理をする傾向。エラーが少ない。
もう一つは、記憶型である。覚えるときのくせに着眼してものである。「視覚型」は情報を見て覚えるタイプ、「聴覚型」は情報を聞いて覚えるタイプである。
2.学習適応性検査の位置づけと活用の仕方
学校で行なうべきことは、知能や適性の向上ではなく、学力の向上である。そのために教師が行なわなければならないことは、子どもの状況を的確に診断することと、それに基づいて効果的な指導をすることである。
知能検査、適性検査には、精度の高い診断機能はあるが、それを効果的な指導につなげる手立てはそれほどあるわけではない。
その点では、ここで紹介した学習適応性検査は、診断だけでなく、それを子どもの学力向上につなげる具体的な治療指導の方策が示されているので、学校現場での活用にとっては有効である。
●第9章の読書案内
(1)知能、知能検査に関するもの
B.ウオールマン著(杉原一昭監訳) 1985 「知能心理学ハンドブック、1,、3」 田研出版
辰野 千寿 1995 「新しい知能観に立った―知能検査基本ハンドブック」 図書文化社
(2)職業適性と興味に関するもの
「職業適性を調べる検査」
田研式 AP-A検査(事務的職業適性) 田研出版
田研式 AP-B検査(機械的職業適性) 田研出版
労働省編GATB 一般職業適性検査事業所用 労働厚生省
「職業的興味を調べる検査」
H・G職業指向検査
TK式職業興味検査
VIT・新訂職業興味テスト
(3)学習適応性に関するもの
教研式AAI 新版学習適応性検査 図書文化
辰野千寿 1987 「家庭学習の知恵・三訂版」 図書文化新書
知能も適性も、比較的、安定した基盤的な能力として考えられてきた。しかし、学校で身につける能力の一つである学力を射程に入れると、知能と適性との関係だけから学力を考えるのでは充分とは言えない。これらは、操作することが難しく、子どもを分類することくらいにしか使えないからである。なお、これが検査使用を過度に抑制してしまっている不幸な現実が日本にはある。
それはさておくとしても、学力に影響する要因は、より広範の及んでいる。子どもの学力向上のための具体的な指導には、知能や適性以外の、教師や親、さらには子どもみずからが操作可能な要因にまで配慮することが必須となる。
ここで紹介する学習適応性検査(Academic Adjustment Inventory;AAI)は、こうした観点から開発されたものである。
1.学習適応性検査の構成
本検査は、大きく3つの領域から構成されているが、主となるのは、学習に直結する「学力向上要因の診断」の領域である。あとの2領域「原因帰属」と「学習スタイル」は、学習活動の背景にあって間接的ではあるが、持続的に影響を与えているものである。
(1)学力向上要因の診断
学力向上要因を、以下の4つのカテゴリーに分け、診断できるようになっている。
「学習態度」 勉強への意欲、勉強の計画、授業の受け方
「学習技能」 本の読み方・ノートの取り方、勉強の技術、テストの受け方
「学習環境」 勉強をめぐる家庭、学校、友人関係
「精神・身体の健康」 自主的態度、根気強さ、心身の健康
いずれの要因も学習に直接的に影響しているだけに、その的確な診断は、ただちに学習活動の改善につながる。
(2)原因帰属
ワイナー(Winer,B)による原因帰属理論に従って、成功失敗時の原因を、能力、努力、課題の困難度、運のいずれに帰属させる傾向があるかを診断できるようになっている。
原因帰属の傾向は、学力に直接影響を与えるものではないが、これが学習への好ましくない学習観や信念を形成して学習への動機づけを困難にさせることが知られているので、看過できない。
たとえば、失敗の原因を能力に帰属させる子ども、あるいは、成功の原因を運に帰属させるような子どもは、学習への動機づけが難しい。
子どもの原因帰属のくせを修正させる訓練(帰属療法)が効果的なことが知られている。
(3)学習スタイル
子どもの学習の仕方にはスタイルがある。本検査では、2つの観点からみた学習スタイルの診断ができるようになっている。
一つは、ケーガン(Kagan,J)による認知型である。情報処理のくせに着眼したものである。
「衝動型」は短時間での浅い処理をする傾向。エラーが多い。「熟慮型」は時間をかけた深い処理をする傾向。エラーが少ない。
もう一つは、記憶型である。覚えるときのくせに着眼してものである。「視覚型」は情報を見て覚えるタイプ、「聴覚型」は情報を聞いて覚えるタイプである。
2.学習適応性検査の位置づけと活用の仕方
学校で行なうべきことは、知能や適性の向上ではなく、学力の向上である。そのために教師が行なわなければならないことは、子どもの状況を的確に診断することと、それに基づいて効果的な指導をすることである。
知能検査、適性検査には、精度の高い診断機能はあるが、それを効果的な指導につなげる手立てはそれほどあるわけではない。
その点では、ここで紹介した学習適応性検査は、診断だけでなく、それを子どもの学力向上につなげる具体的な治療指導の方策が示されているので、学校現場での活用にとっては有効である。
●第9章の読書案内
(1)知能、知能検査に関するもの
B.ウオールマン著(杉原一昭監訳) 1985 「知能心理学ハンドブック、1,、3」 田研出版
辰野 千寿 1995 「新しい知能観に立った―知能検査基本ハンドブック」 図書文化社
(2)職業適性と興味に関するもの
「職業適性を調べる検査」
田研式 AP-A検査(事務的職業適性) 田研出版
田研式 AP-B検査(機械的職業適性) 田研出版
労働省編GATB 一般職業適性検査事業所用 労働厚生省
「職業的興味を調べる検査」
H・G職業指向検査
TK式職業興味検査
VIT・新訂職業興味テスト
(3)学習適応性に関するもの
教研式AAI 新版学習適応性検査 図書文化
辰野千寿 1987 「家庭学習の知恵・三訂版」 図書文化新書
●認知的体験( )01/11/5海保
「究極のかこい込み」
1年間積み立てると1割増しの買物券がもらえるシステムがきょう満期。札束ならぬ、分厚い買物券を手にして買物。でもよくよく考えると---ちょっと考えても---これって、もはや他の店では買物をするなってことに等しい。してやられたか。でもね- 銀行の宣伝では、利子0.6%とか、0.1%を使っているこのご時世、1割の利子は大変なもの。デパートも大変だなー。もっと大変なのは我々庶民か!!
11111222223333344444
20文字/1行 60行 文字のみ 海保 01/6
発想王をめざせ(6)「MIT」連載
海保。松尾著「キャリアアップのための発想術 培風館
2ー6)
具体と抽象
2つの異質な世界を往復する
■頭を柔らかくするポイント
1)具体例で思考をシャープにする
2)抽象化によって鳥瞰図的な見方をする
3)具体と抽象の登り降りをする
●常套句「何か具体例がありますか」
雑誌やTVの取材やインタビューを受けることがある。その中で必ず質問されるのは、「何か具体的な例がありませんか」である。
話をわかりやすくしたり、説得的にするためには、抽象的な話ばかりではまずいということであろう。
具体例は、適切に使われれば、話をわかりやすくするし、語りの内容をシャープにする。
具体例は、こうした語りの場面だけでなく、思考を豊潤にするためにも役立つ。
●具体ー抽象のはしごを登り降りする
人の思考は、具体と抽象の間を絶えず往復している状態がよい。
我々のような研究者の場合で言うなら、モデルとデータの間の登り降りである。商品開発の場合なら、コンセプトと試作品の間の登り降りである。
具体ばかりでは思考が硬くなる。抽象ばかりでは思考が甘くなるからである。
●抽象化すると
抽象化は2つのステップを経て行なわれる。 まず、個別の具体の中に共通するものを抽出するステップである。
次のステップは、その共通したものに、言葉(概念)を割り付けることである。このステップでは、当然、他の概念との関係のネットワークが構築されることになるので、関連する知識をどの程度持っているかが大事になる。豊潤な知識が豊潤な抽象化を生む。
こうしたステップによる抽象化によって、より広い普遍的な観点から物事が鳥瞰(ちょうかん)できるし表現することもできるようになる。
ただし、抽象化もどんどんその階段の上へ上へと誘惑するものを内在させているので、要注意である。だからこその、具体ー抽象の登り降りである。
●具体化すると
具体化とは、概念を目に見えるように(イメージできるように)することである。
「家具」のイメージは漠然としていても、「椅子」「座椅子」なら、簡単かつ鮮明にイメージできる。これが具体化である。
具体化すると情報が増える。そこには、夾雑物も入っている。それにとらわれてしまうと、本質が見えなくなってしまう。具体の桎梏(しっこく)である。だからこその、具体ー抽象の登り降りである。
●適度の抽象度で
人は横着である。登ったり降りたりはしんどいので、はしごの適当なところで腰をおろしていて、必要に応じて登ったり降りたりするのはどうかと考えるらしい。
これが、適度の抽象度(具体度)という考えである。
普段は適度の抽象度のところで思いをめぐらし、いったん事があるときだけ、上や下へ
思いを向けるわけである。
****本文62行
「具体表現と抽象表現」********
■具体表現の例---小説より
「中学は、緩やかな丘陵の途中にあった。生徒以外に人気はなく、サッカーのゴールポスト辺りにいつも鳥が群がっていた。」(桐野夏生著「柔らかな頬」講談社より)
■抽象表現の例---心理学の専門書より
「目標は行為をガイドする。とはいっても、内部目標は慣れた作業になるほど、目標をあらためて意識することがなくなる。目標の暗黙知化が起こる。これも、認知資源を有効活用するための怠けである。(拙著「失敗を「まあいいか」にする心の訓練」小学館文庫より)
「解説」
小説では、具体の細部に至る表現が勝負となる。臨場感を出すためである。これに対して、学問の世界は、抽象が勝負となる。論理性を構築できるからである。
クイズ1「具体ー抽象のはしごを登り降りしてみる」********
■次の概念の具体例を挙げよ。
○バブル崩壊
○構造改革
■次のそれぞれの具体例から抽象化すると、どのような概念を割り付けるのが適当か。
○「12歳少年、母親を刺す」「中学生3人組コンビニ強盗」
○「12歳少年、母親を刺す」「中学生の不登校急増」
「解説」
■「具体例」が即座に3つくらい思いつくようなら、概念の意味がよくわかっていることになるし、立派な語り手にもなれる。
○バブル崩壊の具体例
・4千万円で買った家が今3千万円になってしまった。
・周辺の空き地がいつまでも荒れ地のまま。
○構造改革
・公共事業の配分区分を変更する。
・意思決定の方法を変える
■「抽象化」は、最初のケースなら、「少年犯罪」、2番目になると、もう少し抽象度を上げて「少年の心の闇」とか「少年の異常心理」になる。
「絵」「具体ー抽象のはしご」************
抽象
家具
椅子 絵 「別添」
座椅子 具体
「解説」
はしごのイメージで、具体ー抽象の登り降りを表示してみた。左は、概念構造での具体ー抽象である。右は、ビジュアル表現での具体ー抽象である。
20文字/1行 60行 文字のみ 海保 01/6
発想王をめざせ(6)「MIT」連載
海保。松尾著「キャリアアップのための発想術 培風館
2ー6)
具体と抽象
2つの異質な世界を往復する
■頭を柔らかくするポイント
1)具体例で思考をシャープにする
2)抽象化によって鳥瞰図的な見方をする
3)具体と抽象の登り降りをする
●常套句「何か具体例がありますか」
雑誌やTVの取材やインタビューを受けることがある。その中で必ず質問されるのは、「何か具体的な例がありませんか」である。
話をわかりやすくしたり、説得的にするためには、抽象的な話ばかりではまずいということであろう。
具体例は、適切に使われれば、話をわかりやすくするし、語りの内容をシャープにする。
具体例は、こうした語りの場面だけでなく、思考を豊潤にするためにも役立つ。
●具体ー抽象のはしごを登り降りする
人の思考は、具体と抽象の間を絶えず往復している状態がよい。
我々のような研究者の場合で言うなら、モデルとデータの間の登り降りである。商品開発の場合なら、コンセプトと試作品の間の登り降りである。
具体ばかりでは思考が硬くなる。抽象ばかりでは思考が甘くなるからである。
●抽象化すると
抽象化は2つのステップを経て行なわれる。 まず、個別の具体の中に共通するものを抽出するステップである。
次のステップは、その共通したものに、言葉(概念)を割り付けることである。このステップでは、当然、他の概念との関係のネットワークが構築されることになるので、関連する知識をどの程度持っているかが大事になる。豊潤な知識が豊潤な抽象化を生む。
こうしたステップによる抽象化によって、より広い普遍的な観点から物事が鳥瞰(ちょうかん)できるし表現することもできるようになる。
ただし、抽象化もどんどんその階段の上へ上へと誘惑するものを内在させているので、要注意である。だからこその、具体ー抽象の登り降りである。
●具体化すると
具体化とは、概念を目に見えるように(イメージできるように)することである。
「家具」のイメージは漠然としていても、「椅子」「座椅子」なら、簡単かつ鮮明にイメージできる。これが具体化である。
具体化すると情報が増える。そこには、夾雑物も入っている。それにとらわれてしまうと、本質が見えなくなってしまう。具体の桎梏(しっこく)である。だからこその、具体ー抽象の登り降りである。
●適度の抽象度で
人は横着である。登ったり降りたりはしんどいので、はしごの適当なところで腰をおろしていて、必要に応じて登ったり降りたりするのはどうかと考えるらしい。
これが、適度の抽象度(具体度)という考えである。
普段は適度の抽象度のところで思いをめぐらし、いったん事があるときだけ、上や下へ
思いを向けるわけである。
****本文62行
「具体表現と抽象表現」********
■具体表現の例---小説より
「中学は、緩やかな丘陵の途中にあった。生徒以外に人気はなく、サッカーのゴールポスト辺りにいつも鳥が群がっていた。」(桐野夏生著「柔らかな頬」講談社より)
■抽象表現の例---心理学の専門書より
「目標は行為をガイドする。とはいっても、内部目標は慣れた作業になるほど、目標をあらためて意識することがなくなる。目標の暗黙知化が起こる。これも、認知資源を有効活用するための怠けである。(拙著「失敗を「まあいいか」にする心の訓練」小学館文庫より)
「解説」
小説では、具体の細部に至る表現が勝負となる。臨場感を出すためである。これに対して、学問の世界は、抽象が勝負となる。論理性を構築できるからである。
クイズ1「具体ー抽象のはしごを登り降りしてみる」********
■次の概念の具体例を挙げよ。
○バブル崩壊
○構造改革
■次のそれぞれの具体例から抽象化すると、どのような概念を割り付けるのが適当か。
○「12歳少年、母親を刺す」「中学生3人組コンビニ強盗」
○「12歳少年、母親を刺す」「中学生の不登校急増」
「解説」
■「具体例」が即座に3つくらい思いつくようなら、概念の意味がよくわかっていることになるし、立派な語り手にもなれる。
○バブル崩壊の具体例
・4千万円で買った家が今3千万円になってしまった。
・周辺の空き地がいつまでも荒れ地のまま。
○構造改革
・公共事業の配分区分を変更する。
・意思決定の方法を変える
■「抽象化」は、最初のケースなら、「少年犯罪」、2番目になると、もう少し抽象度を上げて「少年の心の闇」とか「少年の異常心理」になる。
「絵」「具体ー抽象のはしご」************
抽象
家具
椅子 絵 「別添」
座椅子 具体
「解説」
はしごのイメージで、具体ー抽象の登り降りを表示してみた。左は、概念構造での具体ー抽象である。右は、ビジュアル表現での具体ー抽象である。