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発想管理の心理学からの6つの提言

2007-06-23 | 認知心理学
03/5/19海保 講演準備
     R&Dのための
     発想管理の心理学からの6つの提言
      ---創造的思考のためのヒント---

     海保博之 筑波大学「心理学系」

概要******************************************************* R&Dにおける創造的思考を展開するための発想管理の考えどころを、頭の働きを研究している認知心理学の知見をベースに、6つ取り上げてみる。
 まず最初に、創造的な人とはどんな知的および性格的な特徴を持っているかを吟味する。
 ○提言1「創造的な人は、どんな人かを知る」
 ついで、発想の準備期(提言2と3)から,その途中の孵卵期と啓示期(提言4)、そして検証期(提言5)での発想管理のポイントを提言してみる。
 ○提言2「制約条件にこだわり過ぎは創造的発想を抑制する」
 ○提言3「発想を芳醇にするには、具体-抽象の往復思考と         類推思考とが有効」
 ○提言4「潜在処理を活用する」
 ○提言5「失敗を活かす」
 最後に、創造的成果を生み出すには、創造的な人を孤立させない文化、それを支えるチーム力が必要なことを述べる。
 ○提言6「創造を孤立させない」
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潜在記憶のデモに使う実習(pp  )

提言1「創造的な人は、どんな人かを知る」
1-1)創造的な人の「知的側面での特徴」は、創造性検査からうかがい知ることができる。
 知能検査が収束的思考(唯一の正解にできるだけ速く正確に到達する)の性能を測るのに対して、創造性検査は、唯一の正解のないところでの思考の展開(拡散思考)の性能を測る。
実習「創造性検査に挑戦してみる」(pp  )
   創造性検査を構成を構成する6つの下位検査
   (1)問題へ鋭敏さ 問題点や改善点が指摘できる
   (2)思考の流暢さ 大量にアイディアが浮かぶ
   (3)柔軟性 多彩な思考を展開できる
   (4)独創性 非凡なアイディアを生み出せる
   (5)綿密さ 細部まで注意をはらって完成させる
   (6)再定義 概念を分解したり、再構成できる
 知能と創造性を組み合わせて、人を類型化してみる(pp  )。
「知能も高く、創造性も高い人」は問題ないが、
○「知能は低く、しかし、創造性は高い人」(エジソンやチャーチルのような人)の生き方、活かし方がポイント。

1ー2)創造的な人の「性格側面での特徴」としては、(pp  )に示すようなものが挙げられている。誰からも好かれるような性格ではないところに注意されたい。

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提言2「制約条件にこだわり過ぎは創造的発想を抑制す   る」
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創造性とは、制約だと自ら思い込んでいるものが何かを知り、それを取り除き、除去した結果がどうなるかを考えることができる能力のことである。(ラッセル・エイコフ)
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 理系人間は、制約の中での課題解決に慣れている。

実習1「あなたは理系人間?」(pp  )
実習2「制約は解の発見を妨害する」(pp )(pp )

 しかし、創造的な発想は、制約条件に縛られると出てこない。ときには、制約条件をはずして発想を展開してみる必要がある。そのための考えどころとして、
○制約条件の呪縛から自由になる思考訓練をする
実習3「○をあれこれ変えてみると」(pp )
実習4「”わんぱく者(SCAMPER)”発想をしてみる」(pp  )

○制約にとらわれない、あるいは制約そのものを問題にする傾向のある文系人間との共同思考も有効である。

***
提言3「発想を芳醇にするには、具体-抽象の往復思考と   類推思考とが有効」
 知識なくして創造なしだが、知識があるだけでは創造的な発想にはつながらない。創造のためには、既有知識のネットワークの組み替えが必要である。それを促すには、既有知識の活性化と、連想の活用がポイントになる。

○既有知識を活性化する
実習1「知識の活性化とは?」(pp 、 )
 具体的な方策としては、
○知識要素を広く浅く刺激する
  例 本のパラパラめくりや、とりとめのない連想をするなど
○見えるようにしておく
  例 ポストイットやKJ法など

3ー1)活性化した知識の世界で垂直連想(抽象-具体往復思考)、水平連想(類推)をする(pp  )
○具体-抽象の往復思考は、具体の桎梏からの解放、抽象の空論からの解放が期待でき、発想が芳醇になる。
実習2「具体-抽象思考をする」
 例 構造改革の具体例を3つ挙げよ(具体思考)
 例 次の2つのケースに異なる概念を割り付けよ(抽象思考)
   ・「12歳少年、父親を殺害」「中学生、コンビニ強盗」
   ・「12歳少年、父親を殺害」「中学生の不登校急増」

3ー2)類推は、あるものとあるものとが似ている(要素が、構造が)ことの発見は、より深いもう一つの知識を生む(pp  )。これが創造になる。
実習3「類推思考を鍛える」
 次の例のようなたとえ(直喩)をできるだけたくさん挙げよ。
  トヨタの車は、(例)豹のように、敏捷だ。
         (1)
         (2)
実習4「肝臓に癌がある。外部から放射線を患部にあてて治療したい。しかし、あまり強い放射線を当てると周囲の健康な組織を傷つける。さてどうする」
 しかし、類推は、「模倣」あるいは「本歌取り(ほんかどり)」あるいは「剽窃(ひょうせつ)」あるいは「換骨奪胎」と紙一重。
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ピカソは他人の作品を恰好の踏み台にして、思う存分相手をしゃぶり尽くしながら、結果的にはまったく独自なピカソの世界を作り上げてしまう」(高階秀爾)
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提言4「潜在処理を活用する」
 創造には、考えに考えたあと、アイディアを温める孵卵(ふらん)期が必要である。そこでの潜在的な情報処理---いわば、知識をアイドリング状態におくこと---が啓示を生む。(pp  )

実習「潜在記憶の実験を体験してみる」(pp  )

 潜在的な情報処理が創造的な啓示をもたらした例としては、
・セレンディピティ(あるものを探していたら、以前、どうしても見 つけられなかったものが偶然見つかった)
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「何かが難しかったら、それをどうしても仕上げようなどと無理をせずに、何か別なことを新しくやりなさい。もっとやさしくて手に合ったことを…。すると古いことも、2年後には自然と終わっていたり、立ち消えになっているものですよ……」(ベートベン)
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・蛇がとぐろを巻いている夢をみてベンゼン環の構造を思いついたケ クレ
 こうした啓示に導くような良質の潜在的な情報処理を保証するには、
孵卵期に先立つ準備期での強烈な問題意識と高い思考密度、さらに発想の方向をガイドする鋭い感性が必須である。
○強烈な問題意識は、わずかなヒントが創造を触発する
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異なった分野の本を読むことが、創造へと通じていくのは「暗黙知」を刺激するからだろうか。辻井 喬 (堤 清二)
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○高い思考密度は、活性の自動的な拡散範囲を広げる(pp  )
○鋭い感性が発想を価値ある方向へ導く
 感性とは、「感情系が介入した知的情報処理」である(pp  )。 感性の働きは、3つ。
・状況への適応的な即応をさせること
 ・知的情報処理の方向性をガイドすること。
 ・知的情報処理の生成物を評価すること。
○感性を磨くには、ベストなものに触れる
 例 画商は、徹底して本物の特徴を頭にたたき込む
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「突然のインスピレーションは数日間の自発的な努力のあとに限って起こる。そしてそれまでの努力はまるで無駄なように思われ、そこからはなにもよい結果が出てくるようにみえず、通ってきた道は全く正しくなかったように思われる。しかしその努力は人が思うほど不毛であったわけではない。その努力が、無意識の機械を作動させたのであって、その努力なしには機械は動かず、したがって何も生まれなかったことだろう。」(J.アダマール(伏見康司ら訳)「数学における発明の心理」みすず書房)
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提言5「失敗を活かす」
 ヒューマンエラーには4つのタイプがある(PP  )。
 創造的な活動の中で、それぞれのエラー(失敗)がいかに発生し、また、それをどのように生かすかを考えてみる。

5ー1)使命の取り違えエラーと創造
 企画段階での創造的発想は、組織の使命の制約をはみ出ることもある。時には法律違反、手順違反をおかすリスクもあるが、
○ベンチャー的な経営方針の構築などには有効。

5ー2)思い込みエラーと創造
 創造活動に特徴的な、強い信念と感性とに支えられた思い込み的な知的活動は、思い込みエラーとなるリスクも高いが、
○思い込みは問題解決に向けての高い集中と活動をもたらす
なお、思い込みの特徴は、
 ・視野狭窄(pp 、 )  
 ・正しさを確認できる証拠しかみない/みえない(確証バイアス)
 ・エラーをしても自分ではエラーであることに気がつかない

5ー3)うっかりミスと創造
 実験でのうっかりミスが発明・発見につながった例は多い。なぜか。
○1つには、思考実験だけではわからないこと、やってみないとわからないことがあるからである。「発見は発見したい人にしかおとずれない」のである。
○2つには、問題意識を刺激するからである。
  例 インク漏れする万年筆での書類作成の失敗が、ウオータマン    万年筆の開発に。
○3つには、垂直思考、水平思考(類推)を促すからである。
  例 フレミングのペニシリンの発見は、放置しておいた病原菌の    皿が青カビに覆われしまった失敗がきっかけ。

5ー4)確認ミスと創造
 使命の取り違えエラーと思い込みエラーは、自己確認はほとんどできない。仲間からの指摘が必要となる。ただし、エラーかどうかの破断が難しいし、判断を急ぎすぎると、創造意欲が削がれる。
 うっかりミスは、ただちに確認ができることが多い。
○ミスの内容への興味、なぜミスをしたのかの考察が創造につながる。
 (pp )

******
提言6「創造を孤立させない」

2ー1) 創造的な人は、仲間や上司などから好かれない性格の持ち主が多い。しかも、仕事の仕方も独特であるので、チームとしての共同ワークには向かない。したがって、孤立しがちである。
 しかし、創造には、それを支える「創造文化」とでも言うべきものが社会、組織に必要である。孤立した個人では創造はできない。
 創造を生む文化とは、たとえば、次のような雰囲気である。
 ・個人の発想を大切にする
 ・失敗・リスクを許容する/正解志向でない/ポジティブな雰囲気
 ・建設的な批判が飛び交う
 ・タイムリミットよりワークリミットを重視
 ・管理的でない
 ・外部に開かれている
 ・異質が混ざり合っている
・左手思考(直感、美、感情、主観、イメージ)を尊重

2ー2)創造を生むチーム力もある。それは、チームのメンバー構成に関しては次のようなものである。6人のチームを例にすると
・1人の創造的な人(idea generater)
・1人のアイディア・ジェネレターを支える人(idea supporter)
・2人の創造を具体化する学校秀才(idea actualizer)
・1人の発想管理のリーダー(idea manager/killer/checker)
・1人の組織の創造文化に染まっていない異質アイディア・ジェネレ ータかアイディア・チェッカー 
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日本人は個人としては優秀な人が多いのに、組織に入るとだめになるんだ。(坂村健)
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 さらに、チーム力で創造性を高める方策としては、
○準備段階での発想生成を促すブレーン・ストーミング(pp  )やチームによるKJ法(pp  )の活用
○検証段階での具体化の技術、知識を蓄積技術
  例 プロトタイプ制作技術
  例 暗黙知の形式知化の技術(pp )
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 仲間意識の強い集団、つまり凝縮性の高い集団の場合、成員はいずれも互いにその集団に深く関与するようになる。それゆえ、成員は集団から排除されたり仲間の支持を失うことを恐れるという事情が生ずる。このようなとき、成員の主たる関心は、仲間内でことを荒立ててないで現在の望ましい関係を維持することに向けられる。この関心が集団を支配する暗黙の規範になるのである。その結果、当面する問題をいかに上手に適切に処理するかということよりも、むしろ仲間からの支持を得ることを第一に考えてしまう。「集団思考」とはそうしたなかで人々がとる思考形式である。(斎藤勇「人間関係の心理学」誠信書房より)
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まとめ
 創造活動の4つのフェーズにおける発想管理のヒントを述べてきた。
 天才の創造活動と、普通人の創造活動とは同じではない。ときには両者の間に葛藤・軋轢が起こることもある。しかし、普通人が営々として作り上げてきた創造文化あっての1人の天才的創造である。「創造文化」の醸成も大事となる。

参考図書
○海保博之 「連想活用術」 中公新書




●パワーポイントの登場でプレゼンが変わった

2007-06-23 | 教育

●パワーポイントの登場でプレゼンが変わった
最近は、ほとんどが、パワーポイントを使うプレゼンになった。講演会場だと、画面が真ん中、後援者は隅の演題の陰から、という場の設定が一般化している。
  これでは、講演者の見た目が見えない。プレゼンのもっている講演者が見えることによる効果がまったく発揮できなくなっている。学会講演ならいざ知らず、普通のプレゼンでは、もっと講演者が見えるようにするべきだと思う。
「人は見た目9割」(新潮新書)というベストセラー本があるが、そこまではいかないまでも、見た目にも、聞き手の理解を助ける情報がたくさんあることを知るべきである。

心理学の拡大

2007-06-23 | 認知心理学
朝倉「心理学総合事典(仮)」

7部 心理学の拡大 章扉 280字

心理学に限らないが、学問研究には、その内部から知的好奇心のおもむくままに研究領域を拡大していこうとする力が存在する。さらに、その拡大を勢いづけるのは、社会からの期待である。心理学が、今、その研究領域をどんどん拡大しているのは、内部からの力もさることながら、外部からの期待によるところが大きい。
7部に収録した11の章は、それぞれ多彩な領域の最先端研究の紹介になっているが、今後への拡大・展開が大いに期待されるものばかりである。




クオリア 用語解説

2007-06-23 | Weblog


◆クオリア(質感)(qualia)〔心理学〕

バラを美しいと「感ずる」主観的な感覚質感を感覚的クオリアとよぶ。

茂木健一郎は、さらに、外界の対象に向けられている私の解釈や感情や信念、例えば、「これはバラだ」や「私はバラが嫌い」にともなって心に生まれる主観的感覚を、志向的クオリア(命題的態度ともよばれる)まで、クオリアに含め、これを志向的クオリアとよんだ。

脳科学の進歩によって、心の世界のかなりの部分が脳機能で説明できるようになってきた。

だが、最後まで残る(であろう)心の世界のひとつに、志向的クオリアがある。