白さ「頭を元気に 3-18
「面白さは、頭を前向きにする」
我々研究者仲間では、「そのアイディア、面白いね」といったようによく使います。これは、「研究してみる価値があるねー」ということです。「面白い」の語源は、「目の前が白く明るくなる」だそうですが、まさにこれです。
でももう一つ、漫才やギャグが面白いーー「おかしい」と区別できないところもありますがーーということもあります。
主観的にはかなり違う面白さですが、面白さの心理的なメカニズムは共通していると思います。
いずれの面白さも、既有知識との微妙なずれ、それも普通のずれとは異なった方向へのずれがあるときに感ずることができるものだと思います。
そして、研究者仲間で言う面白さは、ずれの方向が、新知識の創造に向っている時です。これを知的ベースの面白さと呼んでおきます。
そして、漫才の面白さは、ずれの方向が、全方位的(予想がつかないような方向)になっていて、しかもずれが一時的な時に起こるのだと思います。これを感情ベースの面白さと呼んでおきます。
ここでは、知的ベースの面白さのほうを取り上げます。なお、感情ベースの面白さは、別途取り上げた笑い、ユーモアと話が一緒になります。
●だんだん面白くなってくる
勉強はだいだい苦痛を伴うものですが、やっているうちにだんだん面白くなってくることがあります。「へー、こんなふうになっているか」「なるほど、なるほど」といったよう感じです。
これは、頭の中で知識がどんどん増殖している状態と言えます。こんな時の主観的な評価が、面白いということになるのだと思います。
やや専門的な用語を使うなら、知識のネットワークが一段上のものに更新されるような状態だと思います。
勉強以外でも、スポーツや仕事でも、最初はおっかなびっくり、あるいは、いやいややっていたものが、だんだん面白くなってくることがあります。
このように、知的ベースの面白さは、上達と密接に関係しています。その関係の仕方は、いわば上への螺旋をイメージさせるもので、上達したー>面白くなったー>さらに上達するー>さらに面白くなったー>―――、となります。
別の言い方をするなら、「奥が深い」とよく言いますが、その奥へ奥へと導くのが、面白さだと思います。この知識の動きが頭を元気にしてくれます。
●面白くなるコツ
①ともかく長くやってみる
面白さが上達と関係しているとすると、何事も長くやってみることが必要になります。
新入社員の3割が3年でやめると言われていますが、3年では、仕事の面白さを感ずることができないかもしれません。
「辛抱」なんて言葉は今の若者には死語になってしまったかもしれませんが、ここはやはり、この言葉を使わざるをえません。もちろん、「辛抱しながら」だけではだめで、同時に着実な進歩感を伴った学びがなければなりません。そういう学びかどうかの判断は、モデルがいる場かどうかがカギになります。モデルがいれば、一緒にいるだけでたくさんのことが学べます。教えてもらえるなら、もう言うことなしです。
②感性を鋭くする
感情は、言葉には表せない無意識で直感的なの「自分にとって」大事な評価をします。その評価に知的な要素が混じったものが感性です。「面白い」は、この感性評価の一つです。
感性評価の大事なところは、一つは、それが身の丈にあった、つまり、自分にとって有効か無効かの判断だということです。あなたにとっておもしろいかどうかの判断だということです。
もう一つは、その評価が無意識で直感的だということです。気がついた時には、もう判断をしていた、というようなことになります。
したがって、感性判断を適切なものにするのは難しいところがあります。へたをすると一人よがり、非論理的となってしまうリスクがあります。そのリスクを補ってあまりあるリターン(見返り)は、新知識の創造です。
では、面白さの感性を磨くにはどうしたらよいのでしょうか。
一つは、逆説的になりますが、意識的にその判断をする機会を増やすことです。「おもしろいかどうか」の判断を随所でしながら、たとえば、論文や本を読んでみるのです。たくさんの経験が感性を鋭くします。
そして、ともかく、面白がることです。「箸が転んでもおかしがる」のです。
最後は、その面白さ判断におもむくままに頭の活動をゆだねてみることです。面白いと思った論文を見つけたら、関連する論文をしばらく読んでみる。途中でつまらなくなったら止める、あるいは方向転換をするのです。