天網恢恢疎にして漏らさず

映画レビューを中心に(基本ネタバレバレです)スキーやグルメ他、日々どうでもいいような事をダラダラと綴っています。

【映画】「運び屋」@16作目

2019年04月01日 | 映画感想
「運び屋」

クリント・イーストウッド監督&主演作。
彼がメガホンだけでなく主演を演じるのはかれこれ2008年制作(日本公開2009年)の「グラン・トリノ」以来だからちょうど10年振り。
そして本作の脚本もまた「グラン・トリノ」と同じニック・シェンクが担当しています。

あらすじ
退役軍人だった園芸家のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は家族も家庭も一切顧みず仕事で名声を上げる事だけに腐心して生きてきた。
ところが時代が流れ老いた彼は時流に取り残され事業に失敗、家も差し押さえにあって一人ぼっちになってしまった。家族はとうに彼の元を離れている。
そんなある日、ある指定された場所に荷物を運ぶだけで高額のギャラが貰えるという仕事を紹介された。簡単な仕事なのに大金が手に入り大喜びで飛びついたアールだったが
実はそれはメキシコマフィアの大量の麻薬を運ぶという仕事だったのだ。

なんと元ネタがあるそーで、ニューヨーク・タイムズ誌に掲載されていた「The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule」という記事から話を膨らませて映画化したのだとか。
本作の下敷きになっている「退役軍人で一時期デイリリーの栽培で成功するものの時流に乗れずに没落し、生活に困って麻薬の運び屋になった90歳の老人」と言うのは実在するそうだ。
まあそこにドラマ部分は多分ザクッと創作して肉付けしたんだろうなぁと推察。
そうそう、もう一つ本作のトピックとして…父親を忌み嫌う長女「アイリス」役を演じているのはクリントの実の娘「アリソン・イーストウッド」
このキャスティングがまた物言いたげな感満載なんですが(苦笑)

正直、本作の予告編観た段階では大して興味を惹かなくてですね…予告編観て勝手に想像してたのは「ジジイは自分が麻薬を運ばされてるとは全く気付かず(完全に騙されていて)
実は自分が知らず知らず犯罪に手を染めていた事にひょんな事で気付いて、良心の呵責に苛まれてどーにかこーにか…」みたいな話なんだろうな~(ハナホジ)と思ってたんですよね。

ところがぜーんぜん違った!!
ジジイ、最初こそ自分が運んでた荷物が大量の麻薬だったと知ってガクブルしてるけど……いや、ガクブルしてたのはたまたま絶妙のタイミングで警察官に声掛けられちゃったからで
間違いなく最初の1回目のブツを運んだ段階で「絶対にあかんモノ…ドラッグか違法拳銃かはたまた子供の臓器か、とにかく法に触れるレベルのモノを運んでる」という自覚はあったハズ。
じゃなきゃただ荷物を運ぶだけでそんな高額なギャラが貰える訳がない。いくら何でもそれくらいは察していただろう。ただ自分の目でブツの内容を確認しなかっただけで。
だから初めて自分が運んでいるブツが麻薬だと視認した段階で「あーーー(やっぱりなー)」程度だっただろう。
でなければ、確実に犯罪行為に加担していると自覚した以降も運び屋を続ける訳がない。
てっきり「罪悪感に苛まれた老人の心の葛藤」を見せる話だと思ってたら壮絶な肩透かし食らって「マジすか…」状態だったんですが、話はジジイが運び屋を自覚してからが面白いw

本来ならもっとずっと深刻なトーンの話になってしかるべき内容にも関わらず、本作は実に軽妙に…時にユーモアを散りばめていてクスリと笑わせながら話が進んでいくのが凄い。
クリント演じる主人公「アール」はいわゆる「とことん食えないジジイ」ってヤツで(苦笑)、常に上から目線と嫌味な物言いが板についた典型的な俺様ジジイ^^;
何よりのご馳走は周囲からの賛辞。妻も子供も自分の従属物にしか過ぎず、娘の結婚式と自分が育ててるデイリリーの品評会の日程が被ったら当たり前のよーに品評会を選ぶ。
だって娘の結婚式は娘が主人公で俺関係ねーし。品評会なら俺様が作ったデイリリーが金賞取って皆が俺様を誉めそやすしな!…レベルの超ド級のクズw
コイツが運び屋を続ける理由…それは、「金さえあれば皆が俺を大切にしてくれる」「金をばら撒けば周囲の称賛を集められる」から。
こーやって文章にすると清々しい程のクズっぷりなんですが(苦笑)、コレがね…クリントが凄いんだなぁ~!クリントが演じてるとなんだか切なくていい話っぽく仕上がるから凄いw

多くの人はアールがクライマックスで語る「時間だけは金で買えない」と嘆くシーンに色んな思いを載せるのだろうと思いますが、自分はちょっと違った事を考えていました。
アールはやりたい放題やらかしまくって、それが元で家族からも総スカン食らってボッチの文無しジジイに成り下がった。
だけど金の力で差し押さえられた自宅だけでなく、周囲の人々の称賛も、そして妻や娘達の心すら取り戻してしまったのだ。
言っちゃアレだけど90歳で刑務所入ったからって何が気の毒なものかと。若い頃はやりたい放題、いざ没落したら今度は犯罪に手を染めてあぶく銭ばら撒いて家族も取り戻して
妻の最期をしおらしく共に過ごして感謝されつつ今生の別れを惜しみ、やるだけやったんだから余生は設備の整った刑務所でデイリリー栽培に精出すってか!ヲイ!てなもんですわ^^;
もしアールが時間すら金で買えたとしても、家族に寄り添うような生き方は決してしなかっただろう、それだけは何故だか断言出来るw

多分だけどね、クリントご自身の生き方が本作にはさりげなく(いやバリバリにw)反映されているんだろう、それを観客に匂わせて感じ取って欲しかったんじゃないか、とすら思える。
飄々と鼻歌交じりでハンドルを握るクリントが実に生き生きとして見える。若いねーちゃんの体まさぐってウハウハしてるのに品すら感じさせる。
クリントご自身がずっとやりたい放題で生きて来て、そして今この年齢になって本作をご自身が監督し、そして演じているんですよ。コレって本当に凄い事だと思うんですよね!!
きっと20年前だったらこの作品は撮れなかったんじゃなかろうかと。今、クリントがこの年齢に達したからこそ撮れた傑作なんだと思う!

だからこそ…なんだかんだで主人公のアールって幸せそうに見えませんか?ちょっと羨ましい老後だとすら思ってしまいましたよw
コメント
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