天網恢恢疎にして漏らさず

映画レビューを中心に(基本ネタバレバレです)スキーやグルメ他、日々どうでもいいような事をダラダラと綴っています。

【映画】「バイス」@17作目

2019年04月08日 | 映画感想
「バイス」

ジョージ・W・ブッシュ大統領時代に副大統領を務めたディック・チェイニー氏を描いた作品。
予告編初めに見た時に「クリスチャン・ベイル」ってクレジットが出てるのにスクリーンの何処にもクリスチャン・ベイルが写ってない…
写ってない…写ってないと思ってたらディック・チェイニー役って、え!マジすか!?の、驚きのデニーロ・アプローチ。なんと体重20㎏も増やして髪も剃ったんだそーで^^;

あらすじ
1960年代半ば、酒癖の悪い電気工ディック・チェイニー(クリスチャン・ベイル)は、恋人のリン(エイミー・アダムス)に激怒され、彼女を失望させないことを誓う。
その後、下院議員のドナルド・ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)のもとで働きながら政治のイロハを学んだチェイニーは、権力の中に自分の居場所を見いだす。
そして頭角を現し大統領首席補佐官、国防長官になったチェイニーは、ジョージ・W・ブッシュ(サム・ロックウェル)政権で副大統領に就任する。
(今回もまるっとYahoo!Movieのあらすじコピペさせて頂きました♪)

監督のアダム・マッケイさんは前作「マネー・ショート 華麗なる大逆転」から社会派に完全に舵切っちゃったんでしょうかね?
自分の中ではアダム・マッケイと言えば「=ウィル・フェレルとアホな映画作ってる人」という印象しかなかったんだけどなー。あの頃が懐かしいなーw
ま、とは言うもののそこはアダム・マッケイ。そんなお行儀のいい映画撮るわきゃーない。本作もとことんコメディにしまくって茶化しまくってやりたい放題!^^
何というか…こういう映画が作れちゃう、そして公開出来ちゃう、しかもアカデミー賞でノミニーされちゃうというのが何とも「アメリカだなぁ」と思わされるわね。
訴訟大国なんぢゃねーの?こんなん作って大丈夫なん?って思いきや、くっだらない事直ぐに訴訟するクセにこーゆー事にはとことん鷹揚っていう超アンバランス感がアメリカンだなぁと。

映画の登場する人物も企業名も全てが実在していて、実際に起こった事を本当に丸々映画化しちゃってるのが凄いんだけど、それがコメディになるというのがとにかく想像を絶すると言うのか。
事実なんだけどドキュメンタリーじゃないからさ、あくまでも娯楽映画だからさ、そこは色々ドラマティックに演出出来ちゃうわけですよ。その匙加減が絶妙と言うのかな。
途中で一旦失脚した際に田舎に引っ込んで釣りしてアウトドア楽しんで家族仲良く暮らしましたとさ♪チャンチャン♪(エンドクレジット流す)…みたいな事やってみたり(途中で席立たないようにね!)
夫婦で会話しているシーンで「実際は違うけどコレは映画なんだから~」ってナレーションが入ったかと思うといきなりシェイクスピアの戯曲みたいな会話にしちゃったり、
法解釈についてレクチャーしているくだりが(国民を監視するシステムを構築するに当たって)レストランでチェイニーが食事しているというシーンになって
ウエイターがメニュー表を持って来てメニュー説明するんだけど「メニューリスト→レクチャー項目」という体になっていてちょっとした寸劇風になっていたりネ。

中でも凄かったのは、映画冒頭からチョイチョイ登場する謎のおっさん(田舎のおやじで子持ちの何処にでもいそうな本当にフツーのおっさん)
第三者的視点で映画のナレーションをしてスクリーンのこちら側にいる観客に語りかけてくるんですが、このおっさん一体どーいう立ち位置なんだろ?ってずーっと思ってたんすわ。
一応最初に登場した時に「まあ、彼(チェイニー)とは親戚みたいなもんだから」と自己紹介しているんだけど、そのくせチェイニーとドラマ部分で全く絡まない。
なんだろーなーと思ってたら…びっくり仰天の展開!確かに「親戚みたいなもん」と言うか、正に「身内」ですわな!(笑)

ディック・チェイニーという人がよく分かる話、と言えば確かにそうなんだけど、何が凄いって奥様の存在が本当に凄かったんだなぁと。
よく「パパブッシュは素晴らしい政治家だったけどその息子ブッシュはボンクラでダメだった」からの~「ブッシュ政権はチェイニーの傀儡だった」とよく言われますが
本作を観るとそのチェイニーを傀儡していたのが正に彼の奥方だったのだ、というのがよく分かる。奥方の才女っぷりがハンパない!
実際彼は学業はサッパリダメだったみたいだけど、でも勉強は出来なくても頭は良く回る人だったんだなぁと。演説は苦手でも屁理屈でムリを通すのは得意だったりねw
そんなチェイニーのメリット部分を早くから見抜いていたのか?奥方はしっかり舵取りしてチェイニーを時に叱り飛ばし時に猫撫で声でヨイショして彼を育て上げたのが見て取れる。

そして…
9.11テロから無関係なイラク攻撃に至るまでのカラクリ等も笑いを混ぜながらザックザックと切り込んでいくんですが、不思議なことに何故かチェイニーに対して悪感情を抱かなかった。
娘のセクシャルマイノリティの事とかさ…家族を守りたいから敢えて失脚した様子とか見てると「案外家族思いのいいパパじゃん」位に思っちゃったり。
なんていうか、「アメリカ史上最強にして最凶の副大統領」というフレコミだったから物凄いモンスターっぷりを毒々しく描いているんだろうと構えて観てみたら、
思ったよりずっと人間味があって釣り好きの田舎のいいおっさんじゃん!位の…ちょっと憎めないキャラ位の印象になっちゃった、みたいなw

まあそれこそがアダム・マッケイの上手いトコロなんだろうなぁと。
「ディック・チェイニーってヤツはこんな悪い事やってるんですよー!自分の私腹を肥やす為に法の解釈捻じ曲げてやりたい放題やりやがったんですよー!」と
ただただ糾弾するだけの構成だったら今頃共和党支持者から暗殺されてるだろう(コラコラ
本作はあくまでもコメディなのです。そしてコメディというのは誰もがにんまり出来て初めて成立するんだと思う。
たとえ誰かをターゲットにしてソイツを晒し者にして笑いを取ったとしても、晒し者にした人に対して愛が感じられなければ「お笑い」として成立しないと思うんですよ。
そこに悪意が感じられた瞬間それはコメディではなくただのイジメになる。
そして……本作はディック・チェイニー氏とそのご家族をとことん晒し者にしまくっていますが、その誰に対しても愛を感じられる作りだったと思います。
だからこそ観ているコチラもチェイニーに対して(やってる事とことんクソなんだけどw)何故だか憎めない気持ちになってしまう。

これこそがコメディの正しくあるべき姿だろうと!アダム・マッケイあんたは凄い!
コメント
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