……誰も送信してくれないし、簡略版がベストセラーになってしまっているので、しかたない、私がオリジナルを送ります。ウィルス騒ぎよりはよほどマシなチェーンメールだし。これはしかし考える“必要”、というか“必然”の話だったんだろう。感情的にならずに、とにかく考えるための資料として読むべきだと思った。
「村の状況報告」The Global Citizenダネラ・メドゥズ(1941-2001)
地球が1000人の住む村だとすると、そこにはアジアの人が584人、アフリカの人が123人、東ヨーロッパと西ヨーロッパの人があわせて95人います。
ラテンアメリカの人は84人、リトアニア、ラトビア、エストニアなどを含むソビエトの人が55人。
北アメリカの人は52人。
そして、オーストラリアとニュージーランドの人が6人います。
村の人たちが気持ちを伝えあうのは、それはそれは大変です。なにしろ、1000人のうち165人は中国語を、86人は英語を、83人はヒンディー語かウルドゥ語を、64人がスペイン語を、58人がロシア語を、37人がアラビア語を話すのですから。
ここにあげたのは、村人の話す言葉の半分だけです。
このほかにベンガル語、ポルトガル語、インドネシア語、日本語、ドイツ語、そしてその他200の言葉があるのです(後に出てくる言葉ほど、話す人の数は少なくなります)。
村には300人のキリスト教徒がいます。このうち、カトリックの信者が183人、プロテスタントが84人、ロシア正教を信じる人は33人です。
イスラム教徒は175人、ヒンズー教徒は128人、仏教徒が55人、アニミズムを信じる人も47人います。
残りの210人は、他の宗教を信じている人たちで、宗教を信じない人もいます。
全体の3分の1にあたる330人の村人は子供です。
子供の半分は、はしかやポリオといった、防ごうと思えば感染の防げる病気にかかっています。
1000人の村人のうち、65歳以上の人は60人。
結婚している女性の半数を少し欠けるほどの人数が、現代的な避妊具を使えますし、実際に使っています。
毎年28人の赤ちゃんが生まれます。
死ぬ人の数は年間10人。このうち3人は食糧不足で、1人はガンで亡くなります。また、2人は生後1年にならない赤ちゃんです。
村にはHIV感染者がひとりいます。まだ、AIDSを発症するところまではいっていないようです。
28人生まれて10人死ぬのですから、来年の人口は1018人になります。
1000人の村では、200人の村人が収入の4分の3をもっていってしまいます。また、全体のわずか2%にあたる収入を200人で分けている人たちもいます。
車を持っている人はたった70人。でも、その中には2台以上持っている人もいるのです。
一方で、全体の3分の1の人には清潔で安全な飲み水さえ手に入りません。
670人いる大人の半数は字が読めません。
村にはひとりあたり6エーカー(※1エーカーは40.4㌃)の土地があります。
全部で6000エーカーある土地のうち、畑が700エーカーです。
1400エーカーは牧草地。
1900エーカーは森林です。
砂漠、ツンドラ、歩道、その他の荒れた土地をあわせると、2000エーカーになります。
森林はすごい速さでなくなっていて、荒れ地は増えています。その他の土地は増えも減りもしていません。村では畑の40%に、肥料の83%をつかっています。この土地は特別お金持ちの人たちが持っている土地で、ここで270人分の作物がとれます。多すぎた肥料は大地から流れ出し、湖や井戸水を汚します。残りの畑には17%の肥料がまかれ、収穫量の28%にあたる作物がとれます。これで村人の73%の食べ物がまかなわれるのです。貧しい人の畑の収穫量の平均は、豊かな人の畑の3分の1です。
世界を1000人の人が住む村だとすると、そこには5人の兵士と7人の先生、そしてひとりの医者がいます。村が1年間に使うお金は300万ドルを少し超えたくらいです。そのうちの18万1000ドルは武器や戦争に使われます。教育に使われるのは15万9000ドル、そして健康管理に使われるお金は13万2000ドルです。
この村には、村全体を吹き飛ばし、塵が何層にもつもるほどの破壊力をもった核兵器が埋まっています。こうした武器はちょうど100人の人の管理下にあります。残りの900人の人は、あの100人はお互いうまくやっていけるようになるのだろうか、そうだとして、万が一不注意や処置を間違えて作動してしまうことはないのか、また、武器を解除すると決めたとしても、武器の原料の危ない放射性物質を村のどこに捨てるのだろうと、息を潜めてうかがっているのです。
<翻訳:佐光紀子>
……このオリジナルが、インターネットで紹介され、電子メールで人づてに広がるうちに、いつの間にか1000人が100人になり、さまざまな言語に訳され、世界中に伝わっていった。そのうちに、4分の3ほどが書きかえられ、同性愛者が11%もいるという衝撃の村(笑)の形に落ち着いている。
たとえ話で語ることには、実は落とし穴が多い。物事を簡略化し、いわゆる俗耳に入りやすい形にすることは、肝心な部分をねじまげ、とりこぼしてしまう危険性をはらんでいる。だが、世界の現状を千分率(のちに百分率)で表すだけで、これだけ反響を巻き起こした背景には、豊かな生活を当然のものと享受している先進国の連中(もちろん日本人も)の常識が、少なからずおごりたかぶっていたことがある。環境ジャーナリストにして農業従事者であるメドゥズのたとえ話は、その意味で効果的だったわけだし、ネットを利用できる富裕層の罪の意識を喚起し、自らを発信者にまでしたと言える。わたしにしても、2001年10月27日付の天声人語でこれの一部を読んだときには、やはりショックをうけた。日本人にとっては、世界における65才以上の人間がわずか6%しかいない現状はもはや想像もできない事態だろうし、30人以下学級がようやく実現できると喜んでいる山形県人にとって、教師の数が人口の0.7%にすぎない世界の現実は……
アメリカ人にとっては、アメリカン・スタンダードを推し進めることが、いかに尊大な態度であるかを感じ取れるはずだ。宇宙船地球号という古くさいメッセージは、まだまだ有効だったのである。
出典は「サスティナビリティ・インスティチュート」。でも英語はめんどくさいし、坂本龍一監修の「非戦NO WAR」(幻冬舎)からいただき。これも必読。