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観客はホテルのシーンで少し残念に思う。ジャネット・リーの下着姿は魅力的でも
ヒッチコック:実際、できるものならジャネット・リーはこのシーンでブラジャーをつけていない方がよかったと思う。このシーンをとくに不道徳にして淫らな刺激をたのしむようなつもりはないけれども、しかし、彼女のむきだしの乳房が男の裸の胸とこすれあうというすばらしいシーンができたろうと思うね。
ほんと、残念です。刑事コロンボの「忘れられたスター」でも健在だった彼女の意外なほど豊かな胸をおがめたら、例のバスルームの殺人も……おっとそれはもっと先の話。
ヒッチコックはセックスを露骨に描くことはせず、観客に想像させる手口を使うことが多かった。「北北西に進路を取れ」で、ケイリー・グラントとエヴァ・マリー・セイントが寝台車で抱き合った瞬間に、列車がトンネルに入るカットを挿入した(性器の結合のメタファ)ように。
女優が下着だけの姿になるのも実は「サイコ」だけ。米国映画製作倫理規定第七条第二項によって過度の露出が禁じられていた経緯はあっても、時代がそれを要求していなかった(はずもないが)のだろう。
ただし、映画職人であるヒッチコックはインタビューにあるように、いい画像が撮れるとなったらそちらを優先したかったのが本音でしょ。
さて、急いでオフィスに戻ったマリオンは、同僚(ヒッチコックの娘が演じています)に「頭痛がするの」と告げる。これもちょっとした伏線。少し遅れて帰社した社長には連れがいる。テンガロンハットをかぶった、典型的な田舎の富豪。
「娘に家を買ってやったんだ。不幸を知らない子でね。不幸は金で追い払うことにしている。きみは、不幸かね?」
マリオンにちょっかいをかけたいのが見え見え。この富豪は家の代金4万ドルを、なんと現金で支払う。目の前に大金を積まれたマリオンは、ある決心をする。以下次号。