PART5はこちら。
背景はシャワーカーテン。
画面の右側にお湯をあびるマリオン。左側はあざといくらいに何もない。
シャワーカーテンごしに、誰かが入ってきたことに観客は気づく。マリオンはシャワーをあびているのでまったく気づかない。
ぼやけた黒い影が次第にくっきりと形をなしていく。
大ぶりのナイフをふりかざす女性。
マリオンの悲鳴。
ジャネット・リーの口のアップ。
何度もふり下ろされるナイフ。
一瞬だけ映し出される腹部(刺されるショットはひとつもない)。
シャワーの音。
バスタブに流れる鮮血。
くずれおちるマリオン。
にぎったシャワーカーテンがひきちぎられていく。
お湯が流れる排水口にマリオンの瞳が二重写しになって惨劇は終わる。
何度見ても名シーンであり、かつセクシー。ヒッチコックは語る。
「あのシーンの撮影には七日間かかった。キャメラの位置も七十回変えた。たった45秒のシーンのためにね。このシーンのために、ナイフで突き刺されたとたんに血が噴き出すよくできた女の裸体の上半身をこしらえたものだったが、結局使わなかった。やっぱり生身の女の裸がいいと思い、ジャネット・リーのスタンドインに、若い娘を、ヌードモデルを使った。このシャワーのシーンでは、ジャネット・リーの手と肩と顔だけがほんもので、あとはすべてスタンドインのモデルだ」
そ、そうだったんですかぁ……
このシーンに、さまざまな意味を求める向きもあるようだ。この殺人自体がレイプそのものであり、ナイフは男根、噴き出すお湯は精液、流れる血は……しかし考えすぎだと思う。
確かにヒッチコックはメタファを使う名人だが、それ以上にスマートな画面作りをめざすテクニシャンなのであり、全世界にみずからのテクニックをひけらかしたい子どものような存在でもある。華麗なカメラワークと編集の腕を優先させたはずだ。
それに、ネタバレになるけれども、この殺人は「レイプ」ではなくて「処罰」だしね。以下次号。