すべてのキャラ総立ち。これで長編を成立させるのだから本当にすごいと思う。
たとえば、子を捨ててぜいたくな暮らしをしている女を、ただの冷たい人でなしにはしていない。遠くにある柿の木の、てっぺんにある赤い実を求め続けるその姿勢に
「たいした女じゃねえか」
ともちあげ、小さな幸せを逃そうとしている男女と対比させ
「お前たちには根性が足りねえ」
と岡っ引きの政五郎に言わせてみせる。
そんななか、ひときわすばらしいのが主人公の平四郎だ。彼自身も事件にもまれるなかで渋く、そして人間として熟していく。宮部の発想のなかに60年代末のTBS「平四郎危機一発」があったとすれば、イメージキャストはやはり若き日の石坂浩二でしょうか。宝田明は違うよなー。
おまえさん(上) (講談社文庫) 価格:¥ 880(税込) 発売日:2011-09-22 |