ジェフリー・ディーヴァー著 文藝春秋社刊
不法移民は“すでに世に亡き者たち”。蛇頭に金を払わなければ、殺される。文句を言えば、殺される。この世から消えたきり、二度と見つからない。「リンカーン・ライム」シリーズ最新刊。
蛇頭の手引で米国密入国を図った中国人が船ごと爆殺された。手掛かりはマスコット"石の猿"。犯人を追うはご存知ライムとサックス。
そりゃもう面白く読ませることなら右に出るものなしディーヴァーの、「ボーン・コレクター」「コフィン・ダンサー」「エンプティ・チェアー」に続くリンカーン・ライム+アメリア・サックスシリーズ第4作。
前に「コフィン・ダンサー」はとりあげたけれど、3作目の「エンプティ・チェアー」はニューヨークを離れた分、ちょっと変則的なつくりで不満。新作は地元が舞台だからおなじみの面々が出ていてうれしい。もっとも、地元とはいっても、中国からの難民という題材からしてチャイナタウンがメインになる。
娯楽作家として文句のつけようのないディーヴァーだけれど、だからこそ作中における中華人民共和国の体制に対するむき出しの批判は、これは一般の米国民の多くが内心そう思っているということなのか、とちょっと複雑な気分。アメリカ人はものごとを単純に考えすぎるからなあ。
しかしこの作品には、得難いキャラクターとして、難民になりすましてまで蛇頭をアメリカまで追いかけてきた中国人刑事が造形されていて、これがなかなかいい。属する体制への嫌悪と、しかしそれを象徴する父親への愛情との相克に悩む男。ただの、リーダビリティの高い作品になっていないのは、この刑事によるところが大きい。
ところで、題名の石の猿だけど、お気づきだろうか。これ、孫悟空のことなのである。
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