事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ソロモンの偽証 後編・裁判」 (2015 松竹)

2015-04-23 | 邦画

前篇の特集はこちら

宮部みゆきの原作は映像化がむずかしいことで知られている。これまでで唯一成功したのは大林宣彦の「理由」ではないか。膨大な登場人物にそのままオールスターキャストを起用し、しかも彼らにノーメイクで、日ごろの演技論を捨てて演じさせたのだ。つまり、宮部原作においては、登場人物のキャラがそれぞれ立ちすぎているものだから、こんな形でしかドラマ化は成功しないのかもしれない。

「ソロモンの偽証」の作り手たちは、大林と同じ方向をめざしたといえると思う。1万人にもおよぶオーディションを行い、選んだ中学生たちを徹底してチームとしてあつかった成果は、裁判の会場である体育館において、傍聴する生徒たちにいたるまで、一人ひとりがしっかりとその役柄に入りこんでいることで明らかだ。

これから観る人は、主演級ではないエキストラたちに注目して。出てきた証言にごく自然に反応している。どれだけ手間がかかったことだろう。

にしても主演の藤野涼子は飛びぬけてすばらしい。わたしは女の子が全力疾走している場面に弱いのだけれど(なんでだ)、この映画で雨の中を走る彼女は、映画の神に見守られているかと思うほど美しいのだ。

その疾走は、トラックとぶつかりそうになって(前編の松子ちゃんの事故を思い起こさせ、観客は息をのむ)終わるが、娘を抱きしめた父親(佐々木蔵之介)が、あとで妻(夏川結衣)につぶやく言葉は、すべての親に痛切に響く。

「あのまま涼子が死んでいたら、あの子の本当の姿を知らないままだった」

もうね、このあたりから涙がとまらなくなる。それに、わたしが原作で最も泣かされた“和服の女性”が、森口瑤子というどんぴしゃのキャスティングで登場し、なぜこの裁判が行われなければならなかったかを理解させてくれる。

犯人の邪悪さと同時に、“その瞬間”を描くことでその人物の孤独まで一瞬で描き切り、原作にみごとに対抗している。ラストに流れるのはU2のWith Or Without You。これまたどんぴしゃの選曲。終盤の正論の連続がきつくもあるけれど、傑作であることはゆるぎません。絶対観て!

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4 コメント

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Unknown (神崎和幸)
2015-04-24 21:33:06
こんばんは。

「ソロモンの偽証」の原作を読みましたよ。
面白かったです。
中学生独特の精神状態と行動がよく描かれていると思いました!

そして映画の前篇も観ましたが良かったです。
後篇も観ようと思っていますよ。
今から楽しみです!
返信する
それはなにより。 (hori109)
2015-04-24 22:34:47
どうも原作を読んでいない人たちに
あまり評判がよくないようなので心配。
真犯人を知っていた方が、安心して見れる
ことは確かでしょうが(笑)
返信する
映画版もコメント, (みこ)
2020-04-24 12:25:58
おじゃまします.
藤野さんの魅力で引っ張られる作品でしたね!

田畑さんは素晴らしいなあ.大好き.
昔から美しさNO.1と思ってる森口さん,
短時間でも役の存在感最大限出してくれ
ますよね.
(「鍵泥棒のメソッド」のラストシーン最高!)

生徒役の皆さん含め,素晴らしかったです.
津川さんはちょっと役に合ってたか疑問ですが.

宮部作品の映像化ではドラマ「火車」の
財前直見版が好きでした.(森口さんも出てた)
クライマックスで三田村邦彦と角野卓造が
顔見合わせて「ああっ!」て叫ぶところが
今だに忘れられない・・・
もいっかい観たい・・・
返信する
わたしはつくづく思うんだけど…… (hori)
2020-04-24 18:36:13
森口瑤子とうまくやれない人間ってどんなだ!(笑)
まあ、俳優としては大好きなんですけどね。
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