事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「大いなる陰謀」Lions for Lambs('07)

2008-05-14 | 洋画

Lfl_top2_2  ベテランジャーナリスト、ジャニーン・ロス(メリル・ストリープ)は、未来の大統領候補と目されるジャスパー・アーヴィング上院議員(トム・クルーズ)の独占インタビューに赴き、対テロ戦争の新作戦について知らされる。同じ時刻、カリフォルニア大学の歴史学教授マレー(ロバート・レッドフォード)は、優秀であるのに勉学に身が入らない学生トッドを呼び出し、志願兵となった教え子2人の話を始める。そして、アフガニスタンでは志し高い2人の若き兵士が最前線に送られていた。

学業に熱意を失った学生を、教授ロバート・レッドフォードは呼びつける。
「あの、先生。ドアは閉めた方がいいですか?」
「自分で考えなさい。」

 わずか92分間のなかに、この作品は多くのメッセージを詰めこんである。作品の体裁は四つのディベートで成り立っている。
・怠惰な学生と、彼の将来性に賭ける教授
・貧困の中から(奨学金を得て)入学した高潔な学生たち(民族的マイノリティでもある)と、彼らを戦場に送るまいと説得する教授
・野心満々の上院議員と、彼の計画にのせられまいと抗うジャーナリスト
・ベトナムの経験から報道の責任を痛感し、スクープよりも実証を優先させるべきだとするジャーナリストと、資本の論理をふりかざし、妥協をすすめるテレビ局の上役(同じ世代だからメリル・ストリープは説得のためにフーの歌詞を引用したりする)

……これがハリウッド映画なのか、と言いたくなるほど生硬な議論がつづく。作者の(監督のロバート・レッドフォードの、と断定できる)主張ははっきりしている。「歩兵たちはライオンだ。しかし彼らは羊である上官に生命をにぎられている(原題は「羊のためのライオン」)。そうならないためには、自らが考えることだ。こんな大義のない戦争がなぜ行われるのか、なぜ自分が命を捨てなければならないのかを判断することだ」

 学問に熱意を失った学生は、政治への失望をこう語る。
「学んでどうなるんです?クソみたいな政治家がやることに、僕が学んだことで、どう影響するというんですか」
「なぜ“参加”しないんだ!」レッドフォードは激昂する。「なぜ、傍観ばかりしているんだ。それこそが“あいつら=羊たち”の望むことなのに」

……ブッシュ~チェイニー体制の共和党へのむき出しの嫌悪。あまりにあからさまな主張。むしろ正論をたたみかけることで観客の反感をかったかもしれない。アメリカではこれだけのスターがそろっているにもかかわらず大コケしたのだし。レッドフォードの老いが、性急な政治映画をつくらせたとも言えるだろう。若者への失望を、彼はこんな形で示す。

「もう帰っていいぞ。それから……ドアは閉めていけ。」

しかしその学生は、トム・クルーズ(誰もが安倍晋三を連想したと思う)がしかけた強引な作戦の報道を知ると……

“アメリカだけの正義”を追及している、との批判もある。しかしわたしは、小泉後の日本にこそ必要な作品なのではないかと思った。平日の17:20上映開始なんて中途半端な時間のため、観客はわたし一人だったのでなおさらそう感じたのかも知れない。少なくとも、メリル・ストリープが団塊世代の苦みを表現した演技だけでも観る価値はあった。あの人の右手の使い方(感情の流れを微妙に表現している)はすごい。

レッドフォードの映画だから邦題が「大いなる」や「華麗なる」になるのは微笑ましい。そして、まさしく自分の金でこんな政治映画をつくった(同時に大コケした)クルーズは偉い。偉いぞトム。

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