作家生活20年を超えた伊坂幸太郎。
そうか、あのしゃべる案山子のお話(「オーデュボンの祈り」)からもうそんなになるんだ。作品リストをながめてしみじみ。全部読んでる。発見する愉しみがないのでちょっとさみしいかも。
さて、久しぶりの長篇書き下ろし。どんなお話かというと、いかにもいかにもな感じ。
中学の国語教師・檀は、猫を愛する奇妙な二人組「ネコジゴハンター」が暴れる小説原稿を、生徒から渡される。さらに檀先生は他人の未来が少し観える不思議な力を持つことから、サークルと呼ばれるグループに関わり始め……。(公式HPより)
檀の不思議な能力とは、他人の飛沫をあびると、その人物の翌日の未来がちょっとだけ見えるというもの。この能力が彼を幸福にも不幸にもする。飛沫による感染だから、これもコロナ小説のひとつにカウントできる。
生徒の書く作中作の登場人物、ロシアンブルとアメショーのやりとりがすばらしい。伊坂幸太郎の作品って、煎じつめれば「へらずグチの応酬」じゃないですか。その才能がいかんなくこのコンビに結実しています。動物虐待への復讐という設定も、「アヒルと鴨のコインロッカー」そのまんまという感じでうれしい。
ただし、ニーチェを読み込むあるグループの動きには、どうにも納得できないものを感じていたんだけど、それをみごとにひっくり返すあたりの企みも、やはり伊坂幸太郎のものなのでした。二十年來のファンでよかった。タイトルに秘められた寓意もすばらしい。
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